長い話

□story5
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「柳生くん、今夜は飲みに行かないか?」

「あ、今日は用事が…すみません、今度埋め合わせしますね、社長」

「いや、いいんだいいんだ!私が勝手に誘ったんだしなぁ。
やー、ほんとうちの息子も柳生くんを見習ってほしいよ全く…」

今の私には、社長の会話が全く頭に入ってこなかった。
バーには、あれから行ってません。
もちろん、ニオウさんとも会ってません。
もしも、ニオウさんとまた会ったら今度は…どうなるんでしょうか。
今度は、理性が効かないかもしれない。
もう、元に戻れない関係になってしまうかもしれない。
それが何より怖かった。

「私、もうあがりますね」

「ん、あぁ。
柳生くん、お疲れ様!」

社長に一礼し、会社を出る。
社長は良い人なのだが、なにぶん息子と私をよく比べる。
一体どんな息子さんなのか少し気になった。 
にしてもどうするか…
用事なんて無いんですよね。
少々の罪悪感を感じながら家路へついたのだった。


…のはずだったのに。 
 
「兄さん、良いカラダしてるよなぁ…オジサンとイイことしない?ほら、お金は沢山あげるからさぁ」

「嫌ぜよ。俺はバーテンダーナリ。風俗嬢じゃないきに」
 
何故、家へ帰る途中にニオウさんがいて、酔っ払いに絡まれてるんですか。
会いたくなかったのに… 
はぁ、と溜め息をつくと私は酔っ払いとニオウさんに近付いた。

「いいじゃんかよ兄さん。オジサン満足させてあげるからさぁ…」

「は、なすぜよ!…っひ…」

その時酔っ払いがニオウさんの腰に触りました。
その時、私の中の何かが切れた音がしました。

「何してるんですか。この人は私の友人です。
離れてください」

がっ、と酔っ払いとニオウさんの間に割り込みます。
酔っ払いは怒りを隠せないように、わなわなと震えていました。

「あ゛ぁ!?なんだよ兄ちゃん、邪魔するなよ!」

やがて怒号が飛んできます。
たまったもんじゃない。

「…だから、私達こういう関係なんですよ」
 

私は、ニオウさんの顎を引き寄せると______________。

優しく、口付けをしました。
それには酔っ払いも驚いたのか、私達のキスを食い入るように見ています。

「…分かりましたか?
理解したなら早く消えてください。私達はこれから楽しむのですから、貴方がいては野暮だ」

ややドスを利かせた声で言うと酔っ払いは真っ青な顔で逃げて行きました。
全く…いい大人が呆れますね。

「ニオウさん、いきなりすみません。何故ここにいるのかは分かりませんが、早く帰った方がいい。危ないですよ」

ぽーっとしているニオウさんに声をかける。
正直、さっきした事だって恥ずかしくてたまらなかった。
だけど、あの状況は仕方ないですね。
ニオウさんは顔を真っ赤にしていた。

「柳生さん、もしかして俺のこと気にしとる?
俺は全然大丈夫ナリ!
あんなこと…」

そこで言葉が途切れる。


ニオウさんは、泣いていた。

「え、ちょ、ニオウさん!?どうしました?」

泣き出すニオウさんはまるで子供のようで。
あやすように頭を撫でるとニオウさんが寄りかかってきた。

「…ぁのね…っ、お、れ…嫌われ、たと…おもって…ぅ…っ」

ああ。
私がヤバいと思って止めたのをニオウさんは勘違いしてたんですね。
それは私が悪い…ですね。

「あれは、その…私の理性が切れそうだったので…
これ以上のことをしてしまうと、戻れない気がして…
ニオウさんも私なんかと…嫌でしょう?」

そう問い掛けるとニオウさんは私の顔を見て、真面目な顔をした。

「…柳生さんじゃなきゃ、嫌ぜよ」

その言葉に、安易に一つの希望を抱いてしまった私がいた。

「…私も、ニオウさんじゃなきゃ、こうはなりませんよ」 

そして、もう一度ニオウさんに口付けた。

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