テニスの王子様

□さよならシンデレラ
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「比呂士さん。今日、あなたに結婚してもらいます」



その言葉が、心に深く突き刺さる。

結婚?

そんな。

私には、好きな人がいるのに______________。

目の前が、暗くなった。





  













「とても気立てが良くて、おとなしくて良い子なのよ。
お母様が保証するわ。
式は夜の7時からで______________」

母様の声が遠くに聞こえる。
私は、言葉では言い表せられないくらい、ショックを受けていた。
大体、母様も母様だ。
いきなり、言わなくたっていいじゃないか。
私にだって、心の準備がいる。
ぐわんぐわんと揺れる頭を抱えてると、私の携帯電話が唐突になった。

「すみません、母様」

私は母様の言葉を遮ると、携帯を取り、自分の部屋へ行く。
着信は、仁王くんからだった。

『あー、もしもし、柳生?
俺、仁王なんじゃが…』

この声を聞くとパニック状態だった心が落ち着いてくる。
少し泣きそうになるのをこらえて相槌を打つ。

「…どうしましたか?あなたが電話だなんて、珍しい」

本当に、珍しい。
いつもはメールで一言二言送られてくるなんて初めてなのに。
慣れない電話のせいか、仁王くんが耳元で話してるみたいでくすぐったかった。

『あのさ、ちぃと頼みがあるんじゃが…お前さん、今日暇か?』

「…内容はなんですか」

『親父の付き添いでな。スーツを新調するんじゃが…俺はスーツに詳しくないからよく分からん。
だから柳生に選んでほしいんじゃよ。ほら、柳生こーゆーの得意そうやき』

なるほど。
その位なら結婚式には間に合うだろう。
私な内心ほっとしていた。
どきどきしながら一人で過ごす時間が減るから。

「分かりました。じゃあ私の推薦するお店をご紹介するので、大学の前で待ち合わせしましょう」 

『おん。さんきゅー柳生』

ぷつりと電話が切れる。
私は急いで大学まで走って行った。
母様には、何も告げず。 
このくらい、許してください。
最後に、仁王くんへの想いを募らせるくらい、許してください…っ。















「お待たせ。久しぶりやの」

「お久しぶりです。元気そうで何より」
 
「お前さんこそ。相変わらず真面目ぜよ。時間ピッタリやったんじゃなか?」

「当然ですよ」

仁王くんとは中学からの仲だ。
昔は二人でダブルスを組んだりして、なんだかんだ楽しい毎日を過ごしていた。
大学では学部が違うから、なかなか会えなかったのだけれど、同じ学部の真田くんに仁王くんの様子はたまに聞いていた。
ほんとに、元気そうでよかった。
私は柄にもなく微笑んでしまった。

「んじゃ、行くかの。道案内よろしく」

「お任せください」

私達は二人並ぶと、昔のように歩き出した。
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