恋する動詞111題 ごちゃまぜ

□108 痛いイタいのは君の言葉
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ある日、俺は丸井先輩の部屋に盗聴器を仕掛けた。
先輩のケータイの充電器と全く同じ充電器を先輩の部屋に持って行った。
そして、先輩がトイレに行ってる間にこっそりすり替えたのだ。
もちろん、その充電器に盗聴器が入ってる訳で。

先輩が今何してるとか、何話してるとか、全てが分かった。
それを聴いては、ニヤついていた。
我ながら気持ち悪いと思うが、丸井先輩が好きだから。
だからこっそり、こうやって秘めやかな想いを晴らしているんだよ。

だけど、最近。
不快な音が聴こえてくる。
そう、丸井先輩が抱かれてる声。
別に一人で自慰をしてる声なら全く問題ない、むしろどんどん声を出してほしいのだが、誰かに抱かれてるとなるとなかなか複雑なものがある。
俺だって、丸井先輩が好きなんだし…
そして、もう一つ。
丸井先輩を抱いてる相手だ。
その相手は、奇しくも俺のよく知る人物で。
特に、丸井先輩が絶頂を迎える時に相手の名前を呼ぶのが腹が立つ。
その場に行って行為の写真を撮ってバラまきたいくらい腹が立つ。
まぁ丸井先輩が困るのでそんなことはしないが。

とにかく。
俺は、今盗聴をしている。
丸井先輩を、愛してるから。



夜、8時くらい。
今日も部活を終わり、急いで自宅の自分の部屋へ閉じこもる。
そして、盗聴器のスイッチを入れる。
すると、いきなり飛び込んできた音は。

『や…っ、に、おっ…!』

『なんじゃ、ブンちゃん。
もうイくのかの?』

行為中の声だった。
生々しいというか、艶めかしいというか。
まるでその場にいるような、気まずさを覚えた。

『…んん…っ…あ、ぁんっ!…』

『…ブンちゃん、愛しとうよ』

『ふ、ぁ…っ…俺、もっ…』

それ以上は聴けなかった。
俺の手が、勝手にスイッチを切っていた。
なんつーか、こんなことしたところで何が変わるんだよ。
丸井先輩に言えない秘密が増えるだけじゃん。
とりあえず、行為が終わったらもう一度スイッチを入れよう。
そう思い、俺はトイレへ駆け込んだ。

夜、9時くらい。
もう一度スイッチを入れた。
すると行為は終わっていた。
その証拠に寝息が聴こえた。
ふぅ、と溜め息をついて、またいつものようにニヤつく。
すると。

ガチャンッ

何かの音がした。
ドアが閉まる音でもないし…
寝てるんだから、誰も丸井先輩の部屋には入ってこないんじゃ…
頭の中に?マークを浮かべる。
とりあえず、どーゆー状況か分からないのでマイクの音量を上げると____________________________。

『あー、もしもし?
盗聴犯さん?』

仁王先輩の声が大音量で聴こえた。
いきなりのことでびっくりし、ヘッドホンを落とす。
床に転がるヘッドホンを拾い上げ、素早く装着すると、仁王先輩がククッと笑っていた。
マイクの音量を下げると、仁王先輩の声がまた聴こえてきた。

『お前さん、驚いてるやろぅなぁ?
盗聴器こんなとこにつけて、バレんと思ったやろぅ?
俺も、今まで知らんかったナリ。
でも、ブンちゃんのケータイの充電器の調子が悪いって言われてのぅ。
俺が少し見たぜよ。
すると、中からこんなもん出てくるんやからのぅ。
おっそろしいもんじゃ。
…お前さん、男同士のセックスの声聴いて楽しいかの?
俺は少なくとも、不快じゃ。
何を目当てにこんなことするんじゃ。
とりあえず、これはブンちゃんの部屋から排除しとくから、
・・
明日返すぜよ。
あと、理由も聞くからな?
・・・・
切原赤也。』

俺は絶句した。
仁王先輩に、全てバレていた。
しかも、盗聴が出来なくなった。
もしかしたら、盗聴のこと丸井先輩に話すかもしれない…!
それを考えるだけで、俺の理性が吹っ飛ぶには十分だった。

「あ゛ぁ、ああ、ぁ゛ああぁあぁああああ゛ぁ!!!!」

そのまま俺は部屋にあったカッターを頸動脈に当てる。
自分が何してるかなんてわかんなかった。
ただ。
丸井先輩に、好きだと伝えたかった。
その想いがカッターを引く手を鈍らせる。

「俺は…俺はぁ…!」

ぎゅっと目を瞑る。
そして、カッターの刃を思い切り引いた。

シュパンッ…

血が、垂れる。
意識が急激に朦朧としてきて、倒れる。
俺は、どこで狂ったんだよ…

ただ、好きなのに。

「っう、ぅう…ちくしょ…っ!」

こんな狂った僕をどうか愛して。
痛い言葉で傷つけないで。
もっと、優しくして。

力が抜けていく。
意識の薄れる中、電話の着信音が鳴る。
必死で手を伸ばし、応答のボタンを押す。

『もしもし…俺だけど。
赤也、最近充電器になんかした?
あんま充電器の調子良くなくて…』

あぁ、丸井先輩か。
今なら、言えるかな。

「…せんぱ、い。…
ずっ、と…すき、でした…」

丸井先輩は、びっくりしていた。
そりゃそーだよな。
いきなり後輩から好きだなんて言われて。

『赤也ごめん、俺…』

その言葉の先は、聞こえなかった。
あぁ、俺ももう無理か。
楽しかった。
先輩のおかげだよ。

『あ、りが、と…う…』

そのまま目を瞑る。
生まれ変わったらもうちょい、ちゃんと生きよう…
そんな馬鹿なことを考えながら、俺の意識は血生臭い部屋に消えた。
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