テニスの王子様
□自傷症。
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「丸井先輩、手、見せてください」
赤也が俺の左手に触れようとする。
やめてくれ。
俺の汚いモノ、全部、見えちゃう。
「やだぁ…!」
必死で抵抗した。
でも二年になって俺より背が高くなった赤也に力では叶わなくて______________。
「っ、ぅ」
息を呑んだ。
包帯がするすると地面に落ちていく。
「…こ、れ、何すか」
赤也の声が遠くに聞こえた。
ああ、もうだめだ。
このまま、気を失ってしまいたかった。
その傷は。
赤黒くかさぶたが出来ており、肉が少し削れていた。
誰が見ても、気持ち悪かった。
「…っう、ぅ…」
涙が溢れてきた。
見られたくなかった。
気持ち悪い自分。
醜い自分。
穢れた自分。
全部、俺が目を背けてきたモノだった。
「…これ、どうしたんすか。
また怪我したんすか!?」
心配する赤也。
その優しさだけで充分だった。
「…見ない、で。
…きもち、わるい、から…」
手を隠した。
でも、それを遮られた。
「…お願いだから…
俺、もう、おかしく、なっちゃうぅ…!」
目を瞑った。
もう消えたかった。
涙をごしごしと拭いていると、赤也が俺の肩をそっと抱き寄せた。
「…先輩、何かあるなら話してくれませんか?
…好きな人が傷付いてる姿は、辛いんです…」
な、んて?
今、何て言った?
“好きな人”?
…俺、が?
「…俺なんか、が?
好きなの?」
いきなりのことで涙が引っ込んだ。
全てのことに対して、何かが緩んだ気がした。
赤也の一言によって。
「…そうすっよ。
ずっと前から好きでした」
俺はまた涙が出そうだった。
今度は別の意味の涙。
嬉しすぎて、幸せすぎて。