長い話

□story1
1ページ/1ページ

今日も、また。


からん、と小気味のよい鐘の音が鳴る。
ドアを開けると、そこには相変わらず見知った顔があった。

「いらっしゃいませ」

「また来てしまいました」

そう、ここはバー『date』。
私はここの常連客なんです。
そして、今声をかけてくれたのはマスターの柳さん。
とても良い人で、この人のお酒はなんだかとても優しい味がします。
きっと人柄が出ているのでしょうね。

「今月入ってまだ10日も経ってないのにもう4回めだが?
仕事に差し支えるぞ」

そして、マスターは少し小言が多い。
まぁ、そんなマスターの小言を酒の肴にして呑むのも一興なんですけどね。

「大丈夫ですよ、ほどほどにしますので」

そう言いながらカクテルを一杯頼んだ。
すると、いつもはマスターが作ってくれるはずなのに、マスターは何もしてない。

「マスター?」

「あぁ、今日は新入りにやらしてるんだ。
“ニオウ”と言うんだが…」

マスターがそこまで言うと、私の前にカクテルが運ばれてきます。

「おまちどおさん」

私の前に現れた男は、少しふわりとした銀髪を結わえ、スカイブルーより暗めの色の瞳で私を見つめていた。
でも、どこか宙を見ている。
なんだか、そんな気がした。

「ありがとうございます。」

私はその男からカクテルを受け取ると、口を付けます。

刹那、口に広がったのは。

少し甘めのさくらんぼのリキュールの味に、ジンが交わってなんとも言えない風味を醸し出していた。

「美味しい…」

思わず恍惚とした表情で呟くと、男は少し驚いた顔をした後、

「俺は、ニオウ。
…おまんは?」

と言った。
私は、少し息を吸うと。

「柳生、と申します」

小さく、吐いた。



これが、私達の出会いでした。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ