SP 警視庁警備部警護課第四係

□序章
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お見合いをしている最中に井上の携帯がなった。

「ちょ、ごめん・・」

井上は軽く会釈をし、席を離れる。


ディスプレイには尾形係長の名前が表示される。

「はい、井上です」

「出動だ。」

「勘弁してくださいよ。今日は待ちに待った非番ですよ。俺の人生が掛かってるんですから、見逃してくださいよ」

電話口に向かって井上が懇願する。


「ふんっ・・」

電話口からは鼻で笑う尾形がいた。

「あ、聞こえましたよ、やな感じっすね〜」

「おまえの連れ合いはそう簡単には見つからないよ。俺が保証する」

「そんなことないですって。今もかなりいい感じだったんすから」

「都知事殿が行動予定にない突然のお出かけだ。行き先は豊洲のシネコン。着は22時予定で。俺が先着しているからお前もすぐ来い」

「そもそも、俺たち都知事担当じゃないじゃないっすか。」

「増員制、6人体制で行くことになったんだよ。本当は朝発令の予定だったんだが・・・」

「総理大臣並みっすね。脅迫かなんかあったんすかね?」

「わからん。いつもの通り俺たちのとこにはたいした情報は降りてこないよ。とにかく一時間以内に到着しろ」

「了解しました。係長」

「近いうちにお前にピッタリな女を紹介してやるよ。」

「まじっすか?!」

「陸上自衛隊と海上自衛隊どっちがいい?」

「勘弁してくださいよ・・・切りますよ」

「待ってるぞ」

「尾形さん」・・・と部下から声がかかる。

井上も電話を切り早々に現場へ向かった。



SPとは明らかに関係無さそうな女性が尾形の元へ駆け寄る。

「柏木・・・」

「はい。尾形係長」

「まだ正式に配属されていないんだから、係長はいらないぞ」

「そうですか?」

柏木と呼ばれた女性は尾形に微笑みかける。

「今からうちの班の一押しがくるからな。勉強になるぞ」

「はい。しっかり学びます」

「まぁ、何も起こらんと思うが、おまえも気をつけろよ・・」

「?」

尾形のその意味がわからずアリアは首を傾げる。

「その・・・ナンパとかな」

「そんな奇特な男性いませんって」

尾形の心配をカラカラと笑う。

「・・・あそこのチケット売り場の男、さっきからお前の事、チラチラ見てるぞ」

「・・・気にしすぎです、尾形さん」

「そうか?」

と言いつつも、チケット売り場の男を尾形は鋭い視線で睨みつける。

「・・・仕事に集中してください。尾形さん・・・」

「そうだな、とにかく、変な奴についてくんじゃないぞ」

「はい。わかりました」

ヒラヒラと手を振り、集団から柏木アリアは離れる。





「うぃっす」

井上が、小走りで尾形の元へ駆け寄ってくる。

「なんすか?これ」

「都知事側がリークしたんだよ」

入り口付近には、マスコミやら一般人やらでざわついていた。


「何の為っすか?」

フイっと尾形は上に掲げられているポスターへ目線をのばす。

「都知事の甥っ子が出てる」

そこには『交渉人 panic in the sky!』と映画のポスターが掲げられたいた。


「・・・映画の宣伝の為ですか。甥っ子に頼まれたんですかね?」

「知るか・・面倒な事してくれるよ。オレはマスコミを整理してくるからおまえはいつも通り頼んだぞ」

「うぃっす」

尾形はアリアの姿を確認すると、あいつだ、と目線で合図する。


アリアは、井上を目視で確認すると彼の行動をじぃっと観察する。
まだSPとしては若い彼はエントランスの中央に位置し、じっと五感を研ぎ澄ませる。

はたから見ていても一体何をしているのかわからない。

?を浮かべながら彼の行動を追う。

あれ、何?と尾形にジェスチャーで聞いてみるが、尾形はアリアに微笑み返すだけだ。


再び場所を移動し、またも不明な行動をし、一息ついたところで井上の腕時計が10時を知らせ、マルタイ到着の連絡が無線に入る。



「了解」
尾形が応答する。

それと同時にSPに囲まれた都知事が入ってきた。


そしてマスコミや一般人の歓声に都知事は囲まれる。

「大変な仕事ね・・・」

ぼそっとアリアは独り言を呟く。


都知事はそんな中、悠然と笑顔を振りまき手を振る。

それを尾形と井上は周りを鋭い視線で警戒する。

「こんばんわ〜」

都知事が愛想を振りまく中、数メートル離れたところにいる違和感のある音を出す杖をつく男に井上は鋭い視線を向ける。

男は井上の視線を避けるかのように方向を変えて歩き出す。





「ね、君・・・・一人?」

アリアにチャラそうな男が声を掛ける。

「えっと・・・そうですけど・・・なにか?」

「いや、さっきから熱心に都知事の事見てるけど、ファンなの?」

「いえ・・・そうじゃないですけど・・・」

「じゃ、一人で映画?」

「ええ、まぁ・・・あの、すいません・・・ちょっと行かなきゃいけないので・・・」

「え〜、いいじゃん、一人なら俺と遊ぼうぜぇ」

男はアリアの腕を掴み、強引に連れて行こうとする。

「ちょ・・・困ります・・・」

(・・・・・どうしよう、投げ飛ばす訳にもいかないし・・・・)


そのアリアの様子を尾形は、見ていたがなにぶん公務執行中の身である為見守るしかできないことにイライラしていた。


「井上です。動きます」

井上は杖をついた男の背を追い移動し始めた。


(あ、やばっ・・・あの人移動しちゃうっ・・・核なるうえは・・・逃げるが勝ちっ!)

「も、しつっこい!!」

アリアはすばやく男の手から逃れると、井上を追った。




「すみません、ちょっといいですか?」

「はい?」

「ちょっとお聞きしたいことがあるんで・・・」

井上は使われていないシアターへと男を誘導する。


「どうしたんだろ?」

アリアもそっとその後を追いかける。


井上は男が入ったところで力いっぱい男を押す。

すると男は杖を離し、さらにスクリーンの前へと進みでる。


そこには杖に支えられなくとも、堂々と立つ男の姿。

「足、なんともないね」

「警察の人って横暴やな」

男はそういいながら井上に寄るとナイフを振りかざし、向かっていく。

井上は難なく男のナイフを叩き落とす。

男はゆっくりとコートを広げる。そこには何十本ものナイフがあった。

そして男はゆっくりと次のナイフを構えた。


男は井上を追い詰め、井上は下がれるところまで下がり壁を背に、男の繰り出すナイフを次々と叩く。

振り返りながら、ナイフの攻撃をかわしたところで、ワイシャツを切られた。

又攻防を繰り返すと、男は尻餅をつく。

「終わり?」

井上が男を見下ろす。

男は立ち上がり杖の方へと歩き出す。

「まだや」

そういうと男は杖の中からシュリンっと長い剣をとりだす。

「あんたマジシャンの方が向いてんじゃないの?」

井上は男に再び構えなおす。

「おりゃ〜っ!!!」

と男は井上にむかってまっすぐに剣を突き刺した。

刺さったかと思われた剣は井上の腰の脇をすり抜けた。

男は剣を手放し、下がる。

「いい加減あきらめろよ」

男はゆっくりとしゃがむ。

井上が男を捕まえようとした時だった

「危ないっ!足にナイフ仕込んでるっ!」

男が足からナイフを振り上げる。

間一髪のところで井上はナイフをよけた。

「残念でした」

井上は男の襟首を掴むとそのまま投げる。

尾形も井上の元へ駆けつける。

「大丈夫か?」

「手錠かしてもらっていいっすか?持ってくるの忘れちゃって・・・」

尾形が手錠をなげて井上に渡す。

手錠をかけ立ち上がると、キョロキョロとあたりを見回す。

「どうかしたのか?」

「いや、さっき女の人の声が・・・・」

アリアがひょっこりと顔を出す。

「あ!!」

「大丈夫でしたか?」

「はい・・・どうもありがとう・・・。きみ、ずっとここにいたの?」

「えぇ・・まぁ・・・」

そう答えるも、バツの悪そうな顔をする。

「まったく・・・学べとは言ったが、危ないことはするんじゃない」


「すみません・・」

「尾形さんの知り合いっすか?」

「まぁな」

「さっき声をかけてくれなかったら、やばかったっす」

『あんなにナイフ持ってるなんてね・・・」

そう言いながら、拾ったナイフを尾形に手渡す。

「ところで、こうゆう場合は所轄の警察に引き渡すべきなんですかね?それとも公安っとかそっち関係っすか?」

「わからん、SPの歴史でテロリストを逮捕したのはお前が初めてだからな」

二人は苦笑いをし本庁へ戻る。










警護第四課

「柏木、ちょっと待ってろ。」

そう言って尾形は報告をしにいった。

井上は尾形に言われたとおり、報告書をまとめる。

「あ、井上さん、ここ怪我してますよ。」

アリアが自分の頬を指差し井上の怪我の場所を教える。

「あー、なんかヒリヒリすると思ったら・・・」

「あ、駄目ですよ、こすっちゃ・・・医務室行きます?」

「や、これぐらい舐めときゃ治ります」

「ふふ・・、じゃ、消毒だけしておきましょうか?」

アリアは鞄の中から消毒液と、絆創膏を取り出す。

井上の隣に腰をかけるとティッシュに消毒液をかけ傷口を軽く押さえる。

「・・・っ」

「すみません、しみましたか?」

「いや・・大丈夫・・・」

アリアの体温が頬から伝わる。

「・・・・かっこよかったですよ?井上さん」

「・・・どうも////」

ぺたっと絆創膏を貼る。

「はい、おしまい」

「ありがとう」

「どういたしまして」

にっこり井上に微笑みかける。

「じゃ、私はこれで・・・」

「あ、係長待たないんっすか?」

「たぶん、遅くなると思うので・・・」

「あ、あのっ・・・」

「はい?」

「あの、またその・・・会えるかな・・・?」

「え?」

「や、せっかくこうして知り合えたんだし・・・その・・・これも何かの縁っていうか…」

「井上さん、私口説いてます?」

「いやっ・・・そんなつもりないんだけど・・・その・・出会いは一期一会って言うか・・・」

「そうですね・・・。でもまたすぐ会えますよ?」

「え?」

「じゃ、お仕事がんばってくださいね」

にっこり笑ってお辞儀をしてアリアは第四課を後にする。



「・・・やんわりと振られたのか・・・?はぁ・・・」

井上がアリアの出ていった出入口を見つめて力なく椅子に腰を落とす。

「ん?井上、何ため息ついてんだ?柏木はどうした?」

「あー・・・帰りましたよ・・そして振られました」

「ははっ・・、口説いたのか?」

「また会えるって言ってましたけど・・・あー、あんないい感じの子そうそう会えるもんじゃないよなぁ・・・」

「そうか?」

「係長はああゆう子タイプじゃないんっすか?」

「いや、タイプだ。ストライク」

「え?まさか二人はつきあってるんすか?!」

井上は尾形に噛み付くように尋ねる。

「いや。」

「よかった・・やっぱりこの機会逃せませんっ!係長、報告書明日でいいっすか?!」

「駄目に決まってるだろう。さっさと書け。」

「だ〜っ、係長の鬼!」




そして夜はふけていく・・・。




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