BL

□恋して愛して
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「―ふむ、なるほどねぇ…。なかなかに、面白い状況になってるようじゃないか?」

――暇つぶしくらいには、なりそうだよ。

あの後、唖然とする雄介に時計を投げ、あっちを向いとけとキツく言い聞かせ、着替えを終えた。
雄介が何かを言いたげにするたびに、時計が当たり赤くなった額を殴った。
僕は決して女ではないが、一時的とは言え女になった体を見られたのだ。
あまり女々しいコトは言いたくないが、さすがに恥ずかしい。
そういうわけで、黙り込んだままそれでもついて来る雄介をほっておき、僕は当初の予定通り繭墨の元を訪れていた。

「全く面白くないですよ、繭さん。僕としては非常に困ってるんです」

僕が軽くため息をつき、ソファーに腰掛けいつもの如くチョコレートをかじる繭墨を見つめる。
繭墨は、僕の返事を聞き軽く眉を潜めた。

「…?どうしましたか、繭さん?何か、気に障るコトでも…」

「君ねぇ、自分で気付いてないのかい?今の君の体は、女性だ。その変化に基づき、声帯も変わっているだろう」

――そんな声で呼ばないでくれ。

気持ち悪い、とでも言いたげな視線でそう吐き捨て、繭墨はチョコレートをかじる。
花の形のチョコレートが、歪に消える。
中からどろりと、赤いジャムがこぼれ落ち彼女の唇を濡らす。

「…まぁ、この際声に関しては仕方ない。話されないのも、困るからね。だが、君のそれが治るという根拠は何もないよ。ちょうどいいじゃないか。元々君は、女顔をしていたコトだし、これを気に女として生きてみては。僕のコトは、気軽にあざかちゃんと呼んでもいいよ?」

そんな、冗談ではない言葉が聞こえた。
彼女はチョコレートから見えるジャムを舐めとりながら甘く笑う。

「冗、談じゃ…ないですよ。僕は男です。女性として生きるなんて、そんな…。だいたい、僕にはこんな重たい物を抱えて生きるのなんて、」

腕を胸の前で交差させ、瞳を不安げにさまよわせる。
すると、カキンッという音をたてて、繭墨が乱暴にチョコレートを噛み折った。
彼女は、わなわなと震えている。
彼女の体を細く締め上げている、ドレスのリボンが揺れた。

「小田桐君?君は、わかっててそういう行動に出てるのかな?」

繭墨は、僕のシャツの首もとを、足で軽く蹴る。
散々迷った挙げ句、僕は一番大きめな白のシャツとジーパンにした。
雄介がいたせいで、ゆっくり服を選ぶ時間もなかったせいでだいぶおざなりだ。
いくらさらしを巻いても、大きすぎる胸は隠しきれなかった。

「雄介君、ちょっと手伝ってくれるかい?……小田桐君のシャツをひんむいて、さらしをとってくれないかな」

とん、とつま先で僕の胸元を押し、とっさのコトに僕が驚いているといつの間にか背後にいた雄介に抱き留められた。

「了解しましたーッ」

「あっ、ちょ、おい雄介!あっ…!」

さっきまで大人しくしてたのにこの野郎、とは口に出せなかった。
雄介の手が僕のシャツの裾から入り、不器用に結ばれたさらしに伸びる。
片手で僕の抵抗を防ぎ、もう片方の手で、しゅるしゅるとさらしをほどいていく。

「……よくもまぁ、そんなものを押さえ込んでいたねぇ」

――窮屈だっただろう?

全てさらしをほどき終わり、雄介がそれを纏めようと悪戦苦闘している。
僕は繭墨の舐めるような視線が気になり、女性のように腕で胸を隠した。
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