BL
□交差する紅と黒
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「―…痛みますか?」
僕の手をそっととり囁いた。
「…いいや、平気だ」
今日、アロイスからうけた手のひらの傷。
赤黒い裂け目が痛々しいがまったくそんなコトないかのようだ。
「…ふ。あいつ、そろそろ死んだか?僕のこんな浅い傷に比べあいつの傷は深いからな。僕が、あいつの身体に刻んだ傷は…」
ぐっと傷に爪を突き立て力を入れると紅い血が流れ出した。
「…坊ちゃん、それ以上は」
「うるさい。僕の身体だ、好きにさせろ。…お前が喰らうのは、魂であって身体ではないのだろう?」
皮肉をこめた笑みをうかべセバスチャンを一瞥して歩き出す。
僕の歩いた道を示すかのように血が床を濡らす。
ぽたぽたと足跡のように残る血痕。
僕は滴る血を気にせず部屋に入った。
「喉が渇いた。セバスチャン、今日はローズヒップがいい」
「…かしこまりました」
さっと一礼して部屋を出て行くセバスチャン。
ぱたんと扉が閉まったのがわかってから僕は手のひらをじっと見た。
――滴る、紅。
僕の血が、純白のシーツを汚す。
穢れない白がどんどん浸食されていく。
広がった紅が僕の元にたどり着く、というところでコンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
「…入れ」
「失礼します」
ワゴンを引きながらセバスチャンが入ってくる。
「坊ちゃんのご希望通り、今夜はローズヒップをお持ちいたしました」
そう言って僕の側まで近寄り、広がった紅に眉をひそめた。
「坊ちゃん、こんなにシーツを汚してしまってどうする気です?」
「喰らいたくなるか?」
僕のその一言で僕のほうに伸びていたセバスチャンの手がぴた、と止まった。
「どうなんだ?…僕の血の匂いに狂うか?……セバスチャン」
口元に笑みをのせ悪魔に聞いた。
「―……そう、ですね…。貴方の血の匂いは、酷く私を興奮させますよ」
普段は紅茶色の瞳を紅く染め舌なめずりをする。
「……ふん」
ワゴンに乗ったローズヒップを手にとり、その上に手をかざす。
ぐっと力をこめると血が滴った。
ローズヒップの赤が、僕の滴る血によってどす黒い紅に染まる。
十分に混ざったところでそれを口に含み、セバスチャンに口付けた。
「…っ!?」
突然のことに驚くセバスチャンの口にそれを押し込み飲み込ませた。
こくり、と嚥下する音をきき唇を離す。
「…どうだ?セバスチャン。僕の味は」
愉しさを隠さず笑みを口元にのせる。
しばらくぱちぱちと驚いていたようだが表情を戻すと、笑った。
「…えぇ。坊ちゃんの味はとても甘美で…今すぐ、喰らい尽くしたくなります」
暗い部屋で光る、紅い紅いセバスチャンの瞳。
間違いなく、今この瞬間のセバスチャンは“執事”ではなく“悪魔”だった。
そっと僕に近付くセバスチャンの肩口に顔を埋める。
「坊ちゃん………、っ」
ぐっとセバスチャンの肩に牙をたてぷつりと流れ出た血を舐める。
「…お前の血も、なかなかに甘いな?」
くすりと笑って唇についた血を舐めとる。
少しびっくりしたような顔をしたのは、一瞬。
すぐにふ…と表情を緩め僕の顎をとり口付けた。
「ふっ…んん…」
セバスチャンのキスに身を任せされるがままに咥内を蹂躙される。