桜、香る。


□3話
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赤髪で長く、肌も白い。
記憶喪失ということは置いといて、今まで見たことがないような顔だった。

奇抜な男が子犬と言ったので、明日香は辺りを見回した。

彼女の周りに犬なんていない。



「うぬは何を探しているのだ?」

「い、犬ってどこにいたんですか?」

「子犬なら我の目の前にいる。」



この人の目の前……?
って私??



「い、犬じゃない!!」

「よく吠える」



明日香はそんなに大声を出していたのだと思うと少し恥ずかしくなって顔を下げる。


なに?私、そんなにうるさいのかな?

奇抜な男はクククと言いながら彼女を見ていた。



「あ、あなたは…だれ……?」

「我は混沌の風。風魔小太郎」


風魔小太郎と名乗った男は続けて話す。



「うぬが探してたのはこれか?」



男が持っていたのは丸い、見たことのある鞠だった。



「あ!!!!!」



ヨシ兄様の鞠!!!

少し汚れた義元の鞠が小太郎の手の中に乗っていた。


「それです!!それを探してました!!!」

「よく吠える」



そう言って、彼はにやにやしている。

また、うるさかったか……。
まあ、確かにうるさかったよね……。

でも、そんなによく吠えるって言わなくてもいいじゃない。

犬じゃないんだから……。




「これ、どこにあったんですか?」

「木の上……」



道理で……見つからないわけだ……。



「み、見つけてくださってありがとうございました。」


明日香のお礼を言うと、小太郎はポンッと彼女の頭に手を置く。

ヨシ兄様と違って素手ではないけれど、大きな手で心地が良かった。

すごくいい人かもしれない。
見た目、かなり奇抜だけど。
子犬とか、言われたけど……。

鞠を見つけてくれたし、こんな風に励ましてくれて……。



「あ、あの――――――」
「投げてほしいのか?」


「…………」




私は子犬じゃない!!!


明日香は心の中で叫んだ。
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