物語

□第4話
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学校が終わり、家に帰る。


「ただいま。」

「お帰りなさい、貴志くん。」

「あれ…?」


玄関の隅に、白いものがあった。

昨日、優里さんが買った白い小皿に……白い山が乗っている。


「塔子さん、これは?」

「盛り塩ですって。悪いものが入ってこないようにって。優里ちゃんがやってくれたのよ。」

「へぇ…。」

「じゃあ、私はお買い物に行ってくるから、お留守番お願いね。」

「はい。行ってらっしゃい。」


悪いものが入ってこないように…か。


部屋に戻り、宿題に取りかかる。


ニャンコ先生の姿が見えないが、
どこに行ったんだろう。


「……せ………こせ……。」


ざわり


嫌な気配がする。


「よこせ…友人帳!」


友人帳狙いの妖怪か…!

妖怪は、大きな手でおれの首を絞める。


「っ……放せ…!」


スパーンッ!


襖が勢いよく開いた。


「貴志くんを放しなさい。」

「小娘……私の邪魔をするか。」

「するに決まってるでしょ。
貴志くんを放せ。」


優里さんが放せと言った瞬間、
空気が冷たくなった。


「………!」


妖怪は怯えて、逃げ出した。


「大丈夫? 水持ってこようか?」

「大丈夫です。ありがとうございます。」


優里さんは、おれの背中をさすってくれた。


「優里さんも見えるんですか?」

「見えるよ。貴志くんも見えるんだね。……てか、まさかとは思ったけど、友人帳の夏目って貴志くんのことだったんだね。」


友人帳のことを知っている…!?


「妖怪達が友人帳の夏目がどうしたとか騒いでたから…。
私が知ってるのは、
友人帳の持ち主が妖怪が見える強い力を持った人間…ってことだけだよ。」


友人帳のことは知らないのか…。
と、いうかなんで……。


「顔に書いてあるよ。
今は、なんで聞きたいことがわかったんだって顔してる。」


優里さんは窓を見る。


「玄関には盛り塩置いたけど、
こっちにも置いた方がいいね。
宿題途中なんでしょ?
さっさと終わらせてしまいなさいな。」


そして、部屋を出て行こうとした。


「優里さん。」


おれは、優里さんを呼び止める。


「友人帳のこと、聞かないんですか?」

「数日前会ったばかりの人間に話したくないことだってあるでしょ?
貴志くんが、話したい時に、話したい人に話せばいいよ。」


優里さんは部屋を出て行く。


「あ、宿題わかんないとこあったら言ってね。わかるとこなら教えるよ。」

「たーだいまー。」


優里さんが部屋から出る直前、ニャンコ先生が帰ってきた。


「先生………。」

「どうした? 夏………!」


先生は優里さんがいることに気付き、口を閉じた。


「…………にゃーん。」


そして、猫のふりをする。


もう、遅いけどな。


「なるほど…ニャンコ先生、妖怪だったんだ。」

「夏目、どういうことだ?」

「優里さんも見える人なんだ。」

「それにしては、リアクションがないな。さては、私の正体を見破っていたか…。私の演技を見破るとは大したやつだ。」


どこが演技だ。


「正体見破ってはいないけど…ニャンコ先生おかしいところ満載だし。」

「なに!?」

「そんなに驚くことじゃないだろ。」


ニャンコ先生はあれが普通の猫の姿だと思っているのか?


「一昨日、貴志くんの部屋から妖怪の気配したし、もしかしたら…っておもったけど。」


だから、窓を見ていたのか。


「それより、どこが!? 私のどのあたりがおかしいのだ!?」

「まず、見た目かな。
猫の種類としては三毛猫っぽいけど、
その目の下の模様って普通の猫はないし。
太ってる猫にしては丸すぎる。
あとは、お菓子食べるし、エビとかイカとか食べるし。」


優里さんはニャンコ先生を撫でる。


「触り心地も、普通の猫と違う。
……まぁ、私はこの感触結構好きだけど。」

「フン……なかなかやるではないか、小娘。何者だ?」

「何者って…。ただ、妖怪が見えるだけの普通の人間だよ。」


優里さんは今度こそ部屋を出る。


「じゃあ、貴志くん宿題頑張ってね。
ニャンコ先生は貴志くんと一緒にいるんだから、貴志くんを悪い妖怪から守らないと。
自宅警備も頑張ってみたら?」


そう言って、優里さんは部屋から出て行った。


「人をニートみたいに言うなー!」

「先生、人じゃないだろ。」


騒ぐ先生は無視して、おれは宿題を始めた。



「ニャンコ先生と貴志くん、仲がよくて楽しそう。
……私達もいつか、そうなりたいな。
ね、──────。」

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