物語
□第1話
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太陽がジリジリと照りつくなか、おれはニャンコ先生の散歩を兼ねて、塔子さんのおつかいで駅に向かっていた。
「夏目、七辻屋で饅頭を買ってくれ。」
「だめだぞ、先生。
ダイエットの意味がないだろ。
それに、おつかいを済ませないと…。」
優先するべきは塔子さんのおつかいだ。
「おつかいとは何だ?」
「今日から一緒に住む、塔子さんの遠縁の人を迎えに行くんだ。」
昨日、塔子さんがおれの隣の部屋を掃除していたから、そこがその人の部屋になるのだろう。
少し不安だ。
妖怪関係で。
目的地の駅が見えた。
「どんな人なんだろう。」
「塔子から何も聞いてないのか。」
「女の人だとは聞いたけど…。」
駅に着いたはいいが、どうすれば…。
悩んでいると、女の人と目があった。
彼女はこっちにキャリーケースを引いて来た。
「あなたが、夏目貴志くん?」
「そうですが…。」
知らない人に名前を呼ばれ、戸惑っていると、彼女は言った。
「あぁ、ごめんなさい。
はじめまして。今日から藤原さんのお宅でお世話になる高橋優里です。よろしくね。」
この人が……。
優しそうな人だな。
「よろしくお願いします。
ところで、なぜ僕のことを…?」
「塔子さんから聞いたの。」
と、言って高橋さんは、ニャンコ先生を抱き上げた。
「丸くて、頭が大きい猫を連れた高校生の男の子が迎えに来るって。
はは、予想以上にまん丸なフォルムだね。」
「はい。太ってるからダイエット中なんです。」
「そっか。じゃあ、頑張って歩かないとね。」
高橋さんはニャンコ先生を下ろした。
「じゃあ、行きましょう。
荷物、持ちますよ。」
おれは、高橋さんから荷物を受け取り、家に向かった。
「ただいま。」
「こんにちはー。」
おれと高橋さんが玄関に入ると、塔子さんが出迎えてくれた。
「お帰りなさい、貴志くん。
ありがとうね。」
と、塔子さんは微笑んでくれた。
「優里ちゃん、いらっしゃい。
綺麗になったわねぇ。」
「お久しぶりです。
今日から、お世話になります。
あの、これ……。」
高橋さんは塔子さんに持っていた紙袋を渡す。
「私の家の近くのお菓子屋さんのお饅頭です。少しですが。」
「まぁ!ありがとう。
あとでいただきましょうね。
貴志くん、優里ちゃんをお部屋に案内してあげて。」
「はい。」
おれは荷物を持ちし、高橋さんを部屋に案内した。
「ここです。」
「わぁ…!畳のいい香り。」
部屋の中は、机と本棚、クローゼットが置いてあった。
「高橋さん、荷物はどのあたりに置けばいいですか?」
「テキトーなとこでいいよ。
ありがとう。」
おれは荷物を部屋の隅に置いた。
高橋さんは本棚を上から下へと眺めていた。
「あ、そうだ。」
高橋さんはおれの方を向いた。
「これから一緒にいるんだし、
私のことは名前呼びでいいよ、貴志くん。」
「はい、…優里さん。」
おれが名前を呼ぶと、優里さんはニコリと笑った。
「さて…やるか。」
優里さんは荷物を開けた。
荷物の片付けを始めるようだ。
「手伝います。」
「ありがとう。助かるよ。」
優里さんは、キャリーケースから文庫本を何冊か出した。
「これを順番に下の段から入れてほしいな。」
おれは本を受け取り、順番に本棚に入れる。
小説と、ライトノベル、漫画、いろんなジャンルの本で、本棚の4段のうちの2段が埋まった。
「じゃあ、その上の段はこれと…。」
本の上の段は、パソコン。
その上はスタンドミラーやアクセサリーが置かれた。
「ありがとう、貴志くん。
おかげではかどったよ。」
「あとは大丈夫ですか?」
「あとは衣類だけだから。」
「わかりました。」
おれは部屋から出た。
「…………。
“夏目”貴志くんか……。
妖たちが言ってた夏目って貴志くんのこと?……まさかね。」