四(2016〜)

□恋人ノ特権
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「まだ居やがったのか、早く出て行けっ!」


「……俺だよ、土方さん」

「え?――あ」


「声もかけねぇで入っちまって、すまねぇ」

「いつから、そこに……」

「副長のでっけえ雷が、最後に一発落っこった辺り、かな」

「……ちっ」

「悪い、つい…な。説教されてた奴等、こないだ入ったばっかの新隊士だろ?」

「そうだ」

「転がるように飛び出てった、ありゃ、まるで怯えた子犬だ。
……あいつら、泣いてたぜ?」

「あんくれぇでメソメソされちゃあ、新選組の隊士なんざ務まらねぇ」

「で、何やらかしたんだ?」

「最近ここらを彷徨いてる猫がいたろう。そいつに、屯所の食料を勝手に与えちまってたんだよ」

「へぇ。それで、罰は?」

「今日明日の飯の種を調達してきてもらう。もちろん、金かけねぇでな」

「てぇことは……」

「日が暮れるまで、魚釣りと山菜採りだ」

「あっははは」

「なにが可笑しい」

「いんや、すまねぇ。あんたらしいと思ってよ」

「無断で食料に手ぇ出すことは許されねぇ。それに、こんな忙しい時に、野良猫に構ってる暇なんざねぇ筈だ」

「まだ童なんだ、しょうがねえさ。
土方さんだって、あの猫けっこう可愛がってたろ?」

「悪さしやがるから、たまに追い飛ばしてただけだ」

「夜中に猫へ話し掛けてんのを見た…て、千鶴が言ってたが」

「あれは……っ。
……猫のことはいいんだよ、それより。早く報告を聞かせろ」

「報告……?」

「今日の巡察、お前の組だったろうが」

「ああ、そうだったな」

「ったく、何しにこの部屋に来たんだ」

「……」

「な、何だ」

「ただ、あんたに会いたかっただけだ、って言ったら?」

「……ふざけやがって。
もういい、特別変わったことがなきゃ、帰って ―――っ !? 」


「ふざけてなんかねぇぜ、土方さん」

「おい……何する……
は、はなせ、左之助っ」

「……随分、機嫌がわりい時に来ちまったな」

「た、隊務の、報告に来たんじゃ……ねえのかよ……」

「だから言ったろ?
……会いたかった」

「ここがどこだか、わかってんだろうな」

「ああ、わかってるぜ」

「だったら、この手をはなせ」

「少しの間だけでいい……静かにこうして抱き締めるくらい、いいだろ」


「だ……誰か、来たら……」

「大丈夫だ。すこぶる機嫌の悪い副長の部屋なんざ、今日は誰も入って来やしねぇよ」

「お前は……のこのこ入ってきやがったじゃねえか」

「恋人の、特権だ」

「自惚れんな」


「本当は、このまま掻っさらってでも、こっから飛び出して……ずっと抱いてたい。
そんくらい、俺はあんたに惚れ込んじまってる」


「とんだ馬鹿野郎……だ」


「ああ。……好きだ、土方さん――」



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