移ろい行く

□02.
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「―――そんなわけで、今日から少しの間、この屋敷に滞在することになったルチアだ。」





皆が集まった食堂で、パーパは隣に立つ茶髪の少女を指した。



彼女は北方のノルドの児童養護施設から来た大使だということらしい。




最近治安が悪くなってきたため、アルカナファミリアに援助を求めに来たそうだ。



それからすぐにパーパは去ってしまう。






「たかが支援要求だけで滞在か…………嘘臭いな」


「賑やかになっていいじゃん。ノヴァはいちいち考えすぎなんだよ」


「リベルタの言う通りだノヴァ。女が増えて華やかでいいじゃねェか」


「デビト!! あなたはまたそんなこと言って…………」


「まあまあ、ルカちゃん。そう言ったってデビトはどうせ変わらないよー?」





ここに集まっていた男性陣は口々にそんな話を始める。




ダンテとジョーリィはここには居なかった。



ダンテは仕事だと思うけど…………ジョーリィはどうなんだろう?




また研究室に閉じ籠っているのかな?




私は一歩前に出て、騒ぎだした皆に狼狽えているような雰囲気のルチアの右手をとった。




「皆騒がしいけど………ちゃんと頼りになるときは頼りになる人たちだから。
 私、フェリチータ。よろしくね。」


「あはは…ご丁寧にありがとう。」




そう言うとルチアは照れ臭そうに笑った。



私より年上だけど、そんなに歳は離れていないような気がした。


少し幼さの残る顔立ちがそう認識させる。



多分、この中で言うと………リベルタと同い年くらいのような感じがした。




「……!! お嬢様が直々にご挨拶を……!! ああ、お嬢様は今日も立派に成長なさっています…………!!」


「ルーカァ。墓前報告みたいに言うなよ、気持ち悪ィ」


「あははっ。今日もルカちゃんの“お嬢熱”は引かないねぇ。」





私だって挨拶くらいするのに…………


ルカってば大袈裟だなぁ…………




そんなやり取りにルチアは目を向けて、困ったように笑った。




そして、ノヴァとリベルタがこちらにやって来る。


ノヴァはいつものように、無愛想な表情でルチアに視線を送った。




「僕はノヴァだ。………先刻は迷惑をかけてすまない。」


「いえいえ。こちらこそ、わざわざここまで連れてきてもらってすみません。
 ………もしかして仕事の邪魔しましたか?」


「いや、別に邪魔というほどでもなかったから大丈夫だ。
 …………でも、だからといって滞在をやすやすと許す気はないが。」


「…………手厳しいね。ちょっと残念です。」



ルチアは苦笑混じりにそう言った。



どうやらノヴァがルチアをここまで案内してきたらしい。



突然の来訪者だからか、妙に視線と言葉にトゲがある。


このレガーロ島の平和を守るため、毎日の巡回を欠かさないような、自分に厳しく他人にも厳しい人だから、どんな些細なイレギュラーも見過ごせないのだろう。


そのせいで無愛想になってしまっているのがノヴァのちょっとした難点だけど、それを除けば普通に正義感の強いいい人だと思う。



私はさっきの会話で気になったことを訊ねてみる。



「ねぇノヴァ。ノヴァがルチアにかけた迷惑って…………?」



そう。


ノヴァは滅多な事では他人に迷惑をかけない。


かけるようなことをしないのだ。


ルチアはさして気にしていないようだが、ノヴァはやはり気にしているようで少し言葉に詰まっていた。




「…………僕が逃がした密輸の現行犯が、こいつを人質にとったんだ。」


「…………私は気にすることでもないと思うんだけど………私がボーッとしてたせいでもありますし。」


「…………」



ルチアがそう言うと、ノヴァは黙りこくってしまった。


ノヴァに対し、そんな言葉は裏目に出てしまうから少し難しい。



「へぇ、あのノヴァが失敗かぁ〜…。
 まぁそんなときもあるよ。
 俺だってダンテに怒られてばっかりだしさ。」



でも、ノヴァの心情を全く考えようとしないリベルタはそう言った。


慰めようとしてくれたんだろう。



でも、今まで何回もそれで失敗してきているのに、まだリベルタは学習しない。


…………バカなのだ。全てが。




「お前に慰められたところで何も救われた気にはならない!!
 お前は毎日のように怒られているだろう!!」


「な………!! そんなことねーよ!!
 つーか、人の厚意くらい素直に受けとれよな、このヒヨコ豆っ!!」




結局、今日来たばかりのルチアの前でガミガミと喧嘩を始めてしまう。


…………できればこんな失態は客人には見せたくなかった…………



ふと隣を見ると、ルチアはまた苦笑いでその喧嘩の様子を見ていた。


…………絶対呆れられてる……よね?



私は目の前で喧嘩をしている二人を止めるため、彼らの頭を目掛けて―――容赦なく足を振り上げた。


 
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