tusk

□発芽
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数年前、
僕は忘れられない酷い経験をした
とあるパーティーでのこと
無作法に葉巻を吸い始めた隣の老人に嫌気がさし、外の空気を吸いにバルコニーに出た時だ
ニコニコと優しそうな少年が僕にカクテルとナッツを運んできてくれた
それを受け取り噛み砕いた途端、呼吸は乱れ血液が音をたて
意識は全てを把握しながら体のどこからか逃げようと駆け巡った
それを抑え込むと、、僕は、、無性に欲しくなり目の前の少年を掴んだ

彼が僕に囁く

『ぁあ、やっぱりだ。欲しい?
欲しいのは案外、…、体じゃないだろ?』

「…、んぁ、、」
『とりあえず、今は…ナニかあげようか?』

続きは朧気だが覚えている
たくさんの手が僕を掴み、まるで生暖かい泥沼の奥へと沈んでいくように
または歓喜の中担ぎ上げられるように
火で焼かれるその先、飛び散り転がるその欠片ヒトツのように

逃げても無駄だとすぐに悟った
どこからともなく声がしてそれらが首筋を駆け上がる

僕の甘い声

『ヒキサキタイ』
『だめだよ』
『じゃあ、食べタイ』
『ダメだ』
『じゃあ、耳だけ』
『ダメダヨ、この子は僕が見つけた【卵】なんだから』
『まさか』
『本当さ、鳥の声の友人から臭いがしたんだ』
『なるほど、なんて生臭い』
『掘り出し物』
『掘り出し物』
『生まれつき魂がこんなに冷たい』
『そもそも過程だ、必要ない』
『このまま』
『うん』
『冷えきって割れるのを待つしかない 』
『へえ、…』
『中途半端な【生】こそ奴等の抵抗なのさ』
『往生際の悪い』
『そこが可愛い』


『テミン』

『テミン』

『テミン』

『テミン』




『テミン…』



「っ、っあ、っ」

それに応えるたびに僕は絶頂を迎え声をあげた
冷たいものが惜しそうに耳を撫でる
髪をすく
足の指をくわえ啜る

あんな経験は今まで1度もなかった
つまり僕はきっと、強い薬を盛られたに違いない
そんな風に冷静に焦っている自分もいた

長い長い愛撫が過ぎ、辺りが静かになる頃
疲れはてた僕の瞼ひとつだって動かなくなってからその唇をこじ開けてナニかを押し込まれる
最後の最後にハッキリと声がした


『人になどくれてやるな』


僕はそれを噛み砕いた途端、あの日のバルコニーに戻りそのまま意識を失ったのだ

「あれは
…、キミ、か…、?」

その声が重なり僕は手を伸ばす




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