tusk
□発芽
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『やぁ、テミナ』
そう彼は言った
ステージでのリハーサル
突然目の前に現れた少年は僕を真っ直ぐに見据え、首をすくめて微笑んだ
止まらない音
踊り続けるメンバーと大勢のスタッフ
それらに囲まれながら、僕はただ一人動きを止めた
タイトな黒いスーツを身に纏い、襟首を気にしながら
その端正な顔立ちからは想像できない力強さで僕を掴んで押さえ付ける
両の腕から心臓に流れ込む冷えた何か。
それが巡りながら耳から飛び出すと、滑らかに頬を落ち、そのまま唇を割った
僕と年格好も近いその少年は、表情を変えることなく小さく笑う
『簡単そうだな』
思わず侵入を拒み、頭を倒す
はっと音が戻ってきた
ミノヒョンが心配そうに、立ち尽くす僕を覗きこむ
「おい、どした?…」
他のメンバーも足を止め振り返った
その向こう、なのか
それともずっと手前、なのか
どの位置関係かも分からない場所から浅い溜め息が聞こえる
少しだけ悔しそうに視線を落とした少年の黒い目がなおも僕を見つめ
そして呟いた
『惜しいな』
その問いかけのひどい矛盾の先に
僕はゆっくりと目を閉じた
胸が苦しい
僕はいつかの夢を思い出しながら
その場に崩れ落ちた
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