シリーズ
□おっさん妖精、あらわる!
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膝の上に載せた教科書の内容を、蝋燭の光を頼りに読み上げている。
「くっ、見つかってしまっては仕方あるまい……」
どけろどけろと言われて机の隣まで下がると、言彦は青いロボットよろしく押入れの中からぬっと出てきた。一体どうやって入ったのか……。
謎だ。
「言彦、お前どうやってその中に入っ……」
「儂は言彦ではないッ!!」
「!!」
突然大声を出されて、反射的に肩が跳ね上がった。
「嘘を吐くな。お前のようなやつが世界に二人といて堪るか」
「儂は暗記の妖精だ」
「ああ、暗鬼の妖精か。なるほどな」
まさかこいつも酔っ払いだったとは。今度、酒で酔わせて賭けの再戦でもするか。勝手に人の親権とりやがって。
「げげげ!その妖精である儂から、勉学に励むお前に問題をくれてやる!」
「なんだよ」
「イチゴパンツの信長を討ったのは誰だ!」
「問題がおかしい!語呂合わせのせいでおかしいことになっているぞ!ついでに言うと、織田信長を討ったのは家臣の明智光秀だ。それによって毛利とかあの辺が助かった」
「くっ……そうだったな。イチゴパンツではなく1582年だったな」
本気で悔しがる言彦は、負けじと二問目を出してきた。
「三国同盟が破綻したときに上杉家に書状を送った今川家家臣は誰だ!」
「今川家家臣……?」
「答えは朝比奈康朝だ」
「知るか!」
「では、第三問!信長の野心で、水軍が強いにも関わらず立地や武将の関係でかなり弱いのは誰だ!」
「河内通直だ!三日三晩部屋にこもってもS4で年を越せなかった私を舐めるな!」
「馬鹿め!だからあれほど西園寺を囮に使えと言っただろう!」
「やっぱりお前言彦じゃないか!」
「言彦ではない!妖精だ!」
「お前のような妖精がいるか!」
「ふっ、お前の”よう”な”妖”精?お前も低レベルのギャグを言うようになったな」
「本人が気付きもしていないことに気付くお前が低レベルだ!」
そこで、さっき蹴り倒した酔っ払いががばっと顔を上げた。
「いいぞ!その調子だ!」
「何が!?」
「だが、まだまだだな!まだ足りん!!俺のファンならもっと熱くなってみせろ!!鶴喰梟ファンクラブのナンバーワンになるって言ってただろ!!」
「言ってない!そしてなんだその悪趣味丸出しファンクラブは!!」
「お前は今日から、富士山だ!」
「ああっ!?私のどこか噴火しそうだっていうんだ!?言ってみろ!!この酔っ払いどもめ!!なんだかわからんが食らえっ!!」
私は何故かそこに転がっていた木刀を手に取ると、それを酔っ払いに振り翳し――
「――っ!……ゆ、夢か」
「……げっ!!」
机に突っ伏していた顔を上げると、酔っ払いどもはいなかった。ただの夢だったようだ。が、後ろから叫び声が聞こえてきた気がする。体勢をそのままにそっと後ろを振り返る。
「…………」
「…………」
「……そんなところで何してんだ、幻実」
いつものエプロンをした幻実がアホ面を下げて、変なポーズのまま固まっていた。ハッとした顔になると、叫びながら乱暴に襖を閉めて部屋を出て行った。
「な、なんでもねえよ!!なんでもねえからッ!!」
裸足のくせにばたばたという足音がどこまでも続いていき、途中で「ああっ!?」という怒声に変わった。「ちげーよ!そんなんじゃ……」どうやら誰かに会ったらしい。どんどん声は遠ざかっていき、だんだんと聞こえなくなっていった。
居眠りをしていたようだし、そろそろ私も活動を再開しよう。もう夕方の四時半だ。二時くらいまでは意識があったはずだが……
軽く体操でもしようかと立ち上がると、肩からなにかがずり落ちた。
「…………ん?」
足元を見ると、見覚えのある上着が落ちている。
「あいつ……」
それを拾い上げた私は、幻実を探しに部屋を出た。