短編めだ2

□どうも御馳走様でした
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 今日はハロウィンだ。

「『というわけで』『トリックアンドトリート!』」

「黙れ球磨川。ジャンプ没収されたいか」

「『えー』」

「悪戯とお菓子がセットになっているお前にやるお菓子はない!というか準備すらしてないから!そんなにお菓子食べたいなら、もがなちゃんの所に行け!確実に貰えるから!そういうわけで##NAME2##はさよならする!ばいばーい氏ね!」










「……というわけで、匿わせてくれ鶴喰」

「別にいいけど。っていうか、トリックアンドトリートとかないわー!球磨川さん何歳だよ!」

 得意の逃げ足で球磨川を撒いた##NAME2##は屋上に駆け込んだ。##NAME2##的にはすっかり箱庭学園に馴染んだであろう鶴喰は、先週から堂々とSQ.を学校に持ち込んできていて、昼休みは屋上に入り浸っている。お友達の人吉はどうした。放置か。

 月刊誌だから表紙に変化は見られない。本人曰く、何度も読み返しているらしい。昨日はDグレを見ていたが、あ、今日はテニプリだ。こっちは全く見たことがないから内容が完全に分からない。##NAME2##はちらっと向けた視線を足元に下げて、その水上タンク裏に腰を下ろした。鶴喰の隣。

「あれ、今日は見ないんだ」

「生憎、それは見たことないから」

「……って、今日ハロウィン!?ハロウィンじゃん!」

「今更何言ってんの!?」

 そうだよ今日31日だよ!と鶴喰は愛しのSQ.をバサリと取り落とした。残念。下のほうまでは落ちていかなかったか。

「##NAME1##さんトリックオアトリート!」

「わー、切り替え早いね凄いねーぱちぱち。だが残念、##NAME2##はお菓子を持っている。ごめんねー、まっこと申し訳ない」

 ポケットから一口サイズのチョコレートを取り出し、がら空きの手のひらに置いて握らせた。

「##NAME1##さんなら準備してないと思ってたのになー。球磨川先輩に対する前科もあるしさあ」

「球磨川はただの仲間だからねー。##NAME2##は女の子主義だから。初対面でいきなりもがなちゃんにセクハラしたような奴に寄越すお菓子なんて持ち合わせてないから」

「明らかに後者が理由じゃない」

「うん、トリックオアトリート」

 鶴喰用のお菓子を密かに準備してきてそれをあげたのだから、これが道理というものだろう。##NAME2##は鶴喰からお菓子をせしめる。

 しかし、鶴喰は##NAME2##を見たまま口をぽかんと開けて固まった。目を合わせたらキョドるんじゃなかったかお前。

「…………」

「トリックオアトリートだよ鶴喰」

 まさか、と思いつつももう一度その言葉を口にした。ひゅーっと冷たい風が吹く。

「じっ時間くれない?ほら、私SQ.読みながらお菓子を食べたりなんて行儀の悪いことしないし!」

「え、ガチで持ってないの?」

 っていうかお前、昨日煎餅かじりながら読んでたじゃんここで。昨日の今日で自分の行動忘れて墓穴掘るなよ。

 言葉を発すると同時に思いっきり目を明後日の方向にそらした鶴喰は、「うん、そう、そうなんだよ。別に今は偶々持ち合わせてなかっただけでさあ。ほら、四六時中持ってるわけでもないじゃない?」と中々のキョドりっぷりを見せてくれた。

「え、悪戯とか何も考えてないんだけど」

 鶴喰は悪戯をしたい方の人間らしいけど、##NAME2##はお菓子目当ての方の人間だ。っていうか、ハロウィンに悪戯する羽目になったの今回初めてだから何をすれば……

「鶴喰、悪戯って剣山に突き飛ばすとか個人情報流すとか色々あるけど、一般的にはどんなのかわかる?」

「え、なにそれ。私そんなハードなハロウィン知らないんだけど!下手したら前者に至っては死者出るからね!とにかく悪戯すりゃあいいってもんじゃないのよ!」

 そこまで言って、鶴喰はため息を零した。

「大体、私はネットとかやらないからそういうことあんまり知らないけど……」

「……?」

「少なくとも過負荷(きみ達)よりは一般的な悪戯をすると思うよ」

 教えてあげるからもうちょっとこっちに来てご覧、と手招きされて##NAME2##は一度立ち上がり、さらに近くに座り直した。

「あ、私だけに対しての悪戯だから、他の誰にもやっちゃいけないよ」

「?うん」

 悪戯をする相手から悪戯の方法を教えてもらうなんてこんな滑稽な話があるだろうか。でも、一般的な悪戯を知らないのだから仕方ない。

「そういう訳だから早速食べさせてもらうよ、これ」

 どういうわけだ。

 かさり、と包み紙から取り出したチョコレートを口にしたかと思うと、鶴喰は一瞬のうちにそれを見ていた##NAME2##にキスをした。唐突且つ恥ずかしさによりうまく説明はできないけど、鶴喰が離れた後##NAME2##の口内には溶け出したそれがあって。

「はい。きみも同じようにしてご覧」

 自身の口端についたチョコレートを親指で拭うドヤ顔のこの男にまんまと悪戯されたのだと気付くのはもうすぐのこと。






どうも御馳走様でした


 勿論##NAME2##がそんな方法で仕返すことができるわけもなく、さらにこんな状態で奴の徘徊する校内にも戻れるわけもなく、困った##NAME2##はとりあえずSQ.を再度読み始めた鶴喰から少し距離置いた。

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