短編めだ

□閉じこもりました
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「こんにちは、騎士さん」

 小柄な少女は、自分よりも遥かに身丈の高い男を見下げて、にこりと笑った。その様子に男の雰囲気が柔らかくなる。

 穏やかな日差しが木漏れ日となって男に降り注ぐ。どこか宮殿の一角だろう、少女は塔の中にいた。その少し高い場所から顔を覗かせているのを、男が見上げているのだ。

 少女とはいうもののそれは幼い顔立ちと背丈のせいであり、実際には年もそれほど離れていない。しかし、明らかなその体格差の原因は、ただ単に剣を振るう者か否かという問題だけでは済まされなかった。

「今日は晴れてて良かった。だって騎士さん、雨が降っても傘を差さないんだもの」

 それはいつのことだっただろう。

 男は思い返そうとしたが、記憶に靄がかかったように思い出せない。それは、男がいちいち天候を気にしていないことにも要因があった。そのことに気付いたらしい少女は、くすくすと笑って口元を綻ばせた。

 いつも笑っていると男は思う。笑顔以外の表情をまるで見たことがない。しかし、男はそれ以外を知っていた。何故だかは分からない。

「あのね、今日は身体の調子がいいの。身体のどこも痛くない」

 少女は男と違って身体が弱かった。階段の上り下りといった上下運動ですら行えない。その弱さは、最早呪いの域に達していた。

 そんな命運を感じさせない花のような笑顔で、少女は男にひたすら言葉を投げかける。男は何も答えず、何も言わず、ただ表情を変えるのみ。男にはそれしか成せなかったのだ。

「──それでね、騎士さん。##NAME1##ね、最近よく思うの。戦争もこの弱さも何も無かったら、良かったのにって」

 少女から笑顔が消えた。それを見てか、男の表情も心なしか固くなる。太陽に雲がかかり、少し風に勢いがついてきた。

「だって、こんな身体じゃ騎士さんの傍にいけない。こんな身体だから、兄さまが……騎士さんの上役が邪魔をする。騎士さんがここまで入ってきてることを、もしも気付かれたりなんてしたらっ……」

 涙ぐんだ声。いや、もう涙は目尻に溜まり始めていた。弱まった日光が僅かに反射する。少し俯いた拍子に、それはぼろっと溢れ出た。

「騎士さん、##NAME1##の言うことをまた聞いてくれるのなら、お願い!戦争なんてもう終わらせてっ……!矛盾してるかもしれないけど、もう##NAME1##、騎士さんに人を殺して欲しくないの」

 きらきらと頬を伝う涙を拭いたかったが、二人の間には距離があった。男の手は短く、届かない。少女は、「変なことを言っちゃってごめんね」と弱々しく涙を拭った。涙は止まらない。

「騎士さんには、ただそこにいてほしい。そこに、いるだけでいいから」

 一際強い風が吹き、男は思わず目を瞑った。花びらや木の葉が舞い上がる。それが落ち着き、男が目を開いたときには、もう少女の姿はなかった。
 
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