シリーズ
□ある一つの可能性
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「げ、げ、幻実くん!言彦は!言彦はいるか!?」
朝の五時前、私は枕元の携帯を引ったくるように掴んで、幻実くんに繋げた。
『姉ちゃん……朝からうるさいんだけど』
そういえば低血圧だったことを思い出す。私も朝は弱いが、今ばかりはそれどころではなかった。あれが夢か現なのかを確認するまでは、夢だと安堵するまでは。
『で、言彦がなんだって?昨日からあいつにどうぶつの森とられてて、傷心気味なんだけど私』
「言彦はいるんだな!?幻実くん、言彦がいるってことだなッ!!」
思わずさらに声を荒げると、幻実くんは向こうで言葉を詰まらせたが、数秒の沈黙の後に『いるよ』と返してきた。
『姉ちゃん……怖い夢でも、見た?』
「言彦が……言彦が、知らない間に死んでいた夢を見た」
食人くんが狩りから帰ってくるのは八時頃、それまでにこれをどうにかしておこう。私は生乾きの頬をパジャマの袖で拭った。
あいつが、死ぬわけないじゃないか……
私は不知火のことをよく知らされないままでいた。伝承のことも、何も。