シリーズ

□ある一つの可能性
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「おっ!起きたんだな名前ちゃん」

「君までここに……」

 なんかいい匂いがするなと思って台所に顔を出すと、食人くんが野菜を切っていた。え?幻実くん?幻実くんは枕で伸した。

「おはよう、食人くん」

「おはよう、名前ちゃん。また髪跳ねてるぜ、いつものところ」

 右手で右耳の後ろの辺りを指差したからそこに手をやると、確かに跳ねていた。

「まあ、かわいいから直さなくてもいいけど、君の家族とはいえかわいいところを見せるのは癪だから僕が直してやるよ」

「ほら、おいで」と包丁を置いた手で手招きされて、私は大人しく食人くんの正面に立った。水で濡らされた手が髪に触れる。

「私の髪ばっかり跳ねてる、君のはいつも通りなのに」

 むっとして言う私に、食人くんは笑いながら言う。

「僕の髪は君が乾かしてくれてるからね」

「私の髪を乾かしてるのは君じゃないか」

「君の髪が触りたいんだから仕方ないだろ、いい匂いがするし」

「……うるさい食人くん、好きだ馬鹿」

 目をそらすと、「知ってる」と軽くキスされた。未だに慣れないなあと頬に集まる熱を自覚する。

「僕も大好きだよ名前ちゃん」

 格好よくてムカついたから「朝食作るの手伝ってあげるよ」と言うと、食人くんは嬉しそうに笑った。

「怪我しても舐めてやるよ」

「恥ずかしいからやめろって言ってるだろいつも!」
 
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