シリーズ
□好きだから
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「そいつを……名前をどうする気だ!」
半纏も登ってきたけれど、それよりも早く猟師は走り出していた。「それはこっちの台詞だ!」と叫び返している。
「どうしてこんなになるまで追いかけ回すんだよッ!」
「どうしたもこうしたもない、名前は俺だ。だから、俺のものなんだ……始めからッ!」
返ってきたその言葉にぞくりと悪寒が走る。駄目だ、話が通じていない。半纏の頭の中じゃ辻褄が合っているのだろうが、私には全くわけが分からない。
ぶるりと震えると、猟師と目が合った。途端、背中と膝裏に力が込められる。
「……駄目だ、この子は絶対に渡さない。幸せにするために……!」
次の瞬間、大声が私の心身を共に突き破った。
「名前は僕のシンデレラだッ!お前のジュリエットじゃない!!」
「ッ!」
その言葉に、私は何か知らないものがこみ上げてくるのを感じた。初めて会った時もだ。その時も何かが……
「大通りに出る時に飛び降りるけど……舌噛まないようにな」
半纏へ向けられていた視線が私へと戻ってきた。どこまでもまっすぐな目と優しげな口調に、こくりと頷く。
「よし、しっかり掴まってろよ。何をしかけてくるか分かったもんじゃないからな」
間近で笑まれて顔が熱くなった私は、それを誤魔化すように胸元を掴んで、そこに顔をうずめた。