シリーズ

□越える
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「……なじみなら死んだよ、言彦に殺された」

 一体誰の声かと思った。私は二人の腕から逃れようと暴れるのを止めた。声が聞こえたのは操縦席から。だが、そこにいるのは──

「だから俺が動き出したんだ。反転したのさ、俺となじみが」

「不知火……半纏……?貴様、一体……?」

「心配しなくとも、すべて説明してやる。だから、まずは俺を反転院さんと呼びなさい」

 しかし、淡々と語る不知火半纏が膝に名前を乗せているのを見つけて、私は閉じようとしていた口を開いた。

「だが待て!しら……反転院さん!なら何故名前はここにいる!こいつも不知火だぞ!」

 不知火同様に名前のことも連れ出すつもりであった私ではあるが、どうも釈然としない。さっきの会話を聞いていたかも怪しいというのに、何故当然のように名前を連れてきたのか。

 まさか、不知火を置いて名前を連れ出すということが既に決まっていたのか……!?

 反転院さんは左手で名前を抱え直し、口を開く。

「不知火は不知火でも名前に限っては違う、こいつはまだ部外者だ。それに、ただの不知火を言彦が追ってくることはない」

「それについては後で説明する」とのこと。その淡々とした口調に変わりはなく、私は不知火半纏に疑わしさを感じた。証拠も何もないのだが、何かしらの計画の影がちらついて仕方がない。

「名前は天然物の不知火。初めからこうするつもりだった」

 色々と言いたいことはあって傍まで歩いていった私は、名前に向けられるその眼差しを目にして、言葉を失った。

「言彦にいくつか壊されたようだからな。里に預けたのは俺だが、もうあそこには返さない──外で、俺の傍に置く」

 あんな目をした奴にそのことを言及するほど、私は非情になりきれない。
 
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