シリーズ
□越える
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十何キロか走ったところで、流石の私も限界を迎えた。知らない街の路地裏。行き止まり。壁は高くないが、その近くに物が散乱していて、少なくとも一人では乗り越えられない。
「──知らないようだから、教えてやるよ」
私は半纏のほうを振り向いた。観念は、しない。
「いいかい、私は意見を聞き入れることはあっても、従うことが大嫌いなんだ。だから、絶対に君の言うことなんて聞かないし、服従も隷従もしない」
隷属なんてまっぴらごめんだ。それだけは何が何でもしない。無理矢理にでもしてみろ。そうしたら、もうそこに私はいない。私の形をした何かが残るだけで、私はいなくなる。
死ぬんだ。身体を残して、魂だけが。
「世界は思うより狭いが、それ以上に広いんだ。お前、私に構っている場合なのか?今も世界には可能性が生まれているんだぞ」
確かに私はそこら辺に転がっている玉じゃないし、そうでありたくもないが、他に同等のものが見当たらないとは思えない。
「誰かが私を勘当させたことだけは、その時から分かっていた。逃げながら考えていたんだ。今なら分かる。その誰かがお前だったんだと」
「………」
「いつだか知らないが、私を見つけたときからそのつもりだったんだってな。だから大方、あそこに私が迷い込むようにミスリードでもしたんだろう」
もしかすると家族がいたところから、全くのまやかしだったかもしれないが。