シリーズ

□越える
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「本当に、取り戻せるんですか。そうすれば、私は壊れた記憶を、心の欠片を……作れるんですか、半纏さまは」

「ああ。一生をかけて完璧に仕上げたものを贈る。お前にだけは嘘を吐いたりしない」

 これにも嘘はない。嘘がないのだ。嘘であれば、まだ良かったのに。でも、私に「敵」を思いやる心は初めからないのだ。

「 だ が 断 る 」

 本当だろうと嘘だろうと、私はハナからこのつもりでいた。

「ギャンブルで泣かせたり、金を取り上げたりと、面白くて好きなことは色々あるがな……」

 一旦そこで言葉を切り、半纏に向かって笑みを浮かべた。

「この私が最も好きなことは、自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやる事だ」

「お前……」

 ぴくり、と半纏の口元が引きつった。そんな半纏に、私は畳みかけるように改めて呼びかける。

「……なあ、半纏。最も難しいことって、なんだと思う?ああ、もうお前に敬語は使わないからな。全くもって信用に値しないと判断した」

 こいつの言うとおりなら、私は昔に戻れたとしても皆のところへは戻れないのだ。

「最も難しいことは、いいかい?最も難しいことは、自分を越える事さ」

 それなら、取り戻せないままでいい。

「私は自分の限界を、これから乗り越える!!」

 だから今!私は死力を尽くして、逃げるんだッ!この男から!!
 
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