シリーズ

□越える
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「……言うならせめて、面白い冗談を言ってください」

 私の声は震えていた。冗談ではないと分かったからだ。全くのポーカーフェイス。嘘をついていない。

 鶴喰鴎を見つけて、私が仕事をするようならその影武者になるようにと裏で手を回していたのはこいつ。そして、私は鶴喰名前でいる間、数多の嘘に遭ってきた。

 だから、分かるのだ。嘘ではない、全くの真実だと。

「誰が冗談でそんなことを言うか」

 そう言って、半纏は傾けかけたグラスをテーブルに戻した。

「いいか名前、俺の子供を産め。そうすれば失ったものを取り戻させてやる」

 何を言っているんだ、この男は。言彦が壊したものは直らない。新しく作るにしても、それは……

「呆けるな、お前に欠けたものを俺が作ってやると言っているんだ」

「だから傍にいろ」と半纏は立ち上がった。受け入れがたさから身じろぎ一つできずにいる私へと近付いてくる。

「お前は俺のものだ。俺の傍を離れたら許さない」

「だ、誰があなたの物ですかッ!私は、私のものだ。誰のものでもない!」

 言彦に親権(仮)を取られているが。

 テーブルを叩いて立ち上がると、並んだコップの中身が揺らいだ。半纏を睨みつけて気付いたことだが、かなりの身長差がある。

 でも……

 私の頭に、半纏の意見が流れ込んでくる。

「………」

 数秒ののち私は退くのを止めて、半纏に向き直った。
 
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