シリーズ
□越える
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「名前は俺の為に生まれてきたに違いないんだ……」
「……は?」
好きなものを好きなだけ飲んでいいと言われたので、遠慮なく六つ目のグラスを満たそうとした時だった。
ソファーに腰掛けたままの半纏が、おかしなことを言った。気のせい、聞き間違いかと思い振り返ると、思い切り目が合って私はドリンクバーへと目を戻した。
「きっと……そうだ。俺と名前が合わされば、希少中の希少になる……」
わけがわからない。
確かに、スキルを直接どうこうするスキルの持ち主である私も半纏も希少だし、両方のスキルを所持できればそうなる。とても興味深い。
けれども、どちらかというと私は希少種(めずらしいもの)よりは、奇怪種(おもしろいもの)に気を惹かれるのだ。
だから、何か提案されても面白くなければ手伝う気なんてさらさらない。私の失った心のパーツだとかをどうにかしてくれるのなら……事によっては話は別だが。
だいたい、どうしたら合わさるんだよ、摘出した細胞でも融合させる気か?遊戯王みたいに融合が簡単に行くほど現実は甘くないっていうのに。
とりあえず……半纏から話があるらしい。私は両手に持ったグラスを他のものの隣に置いて、その正面に座った。
「……で、話って何ですか」
正直、話なんてさっさと切り上げて里に帰りたい。時間はもう過ぎているだろうが、錯悟くんからあの森に行くように言われたんだ。遅れても行く。
「話というよりは、頼みだ。お前に頼みがある」
さっき話があるって言ったのはお前だろうがッ!それになんだかよく分からない奴、つまりこいつとはあまり話していたくない。早く終わればいいのに、と大人しく黙る。
大抵、黙ってさえいれば話はすぐに終わるのだ。面倒な頼みごとだろうと、さっさと断ってしまえばいい。
話すならせめて、私を里から連れ出すと面白そうなことを言っていた黒神めだかだ。あんなことを私に言ってきたのは、あいつが初めてだ。
半纏の頼みごとの内容は、私を動揺させるには十分だった。
「俺の子を孕め」