シリーズ
□らしくないが
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そう思って、不自然にならない程度に出来る限り丁寧な口調で尋ねたが、期待とは裏腹にその眉は顰められる。
「ずうずうしい奴だな、君は。人に名前を尋ねるときはまず自分からって習わなかったのか?」
一癖も二癖も難がありそうな態度。私は若干の苛立ちを覚えたが、弟くんの影武者なのだ。仕方がないと言える。
しかし、その態度は意外にも簡単に折れることとなる。
「──名前、名乗ってやったらどうだ」
「……今回は仕方なく名乗ってやるよ」
獅子目言彦が少し促しただけで、名前は後頭部を掻き、肩から力を抜いた。そうか、名前というのかこいつは。
視線が私へと戻ってくる。今し方気付いたのだが、名前の目は同じ人間であることを疑いそうになるほど、鋭かった。
「私は名前、不知火の里に住んでいる」
形がではない。その内に孕んだ何かが鋭いのだ。もし、漆黒宴に、あのしりとりに名前が参加していたらと思うと、私は寒気を感じざるを得なかった。
あの鋭い眼光に見つめられては、私はきっと……
「──で、君は誰だ。私が名乗ってやったのだから、君も答えるのがフェアってやつなんじゃないのか?」
訝しげに顰められた眉。このままでは突き放されてしまうと私は慌てて口を開いた。
「そ、そうだな、それはフェアじゃない。だが、私は丁度今名乗ろうとしていたんだ、堪忍してほしい。私は黒神めだかという」
「黒神めだか?」名前を反復された。「ふーん、お前が黒神の次女だったのか」と、名前は大して興味無さそうに呟いた。
名前は、私を知らなかった。