シリーズ

□まいった
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 傀儡の部屋の前についた。

「………」

 傀儡の部屋の前についた。

「………」

 そこにいるのは分かっている。中から気配を感じるから間違いない。

 ところで……

「………」

 部屋に入る時って、声をかけるのとノックするのと、どっちが先だっただろうか。

 どちらかが先だとは思うがもしかすると同時にかもしれないし、だけどそうなると片方が片方にかき消されて聞こえないかもしれないからやっぱりどちらかが先で、でもこんなのに順番なんてあったか?そもそも。分からん。こうなったらやけくそでどちらかを選んで部屋に突入し……駄目だッ!万が一、万が一にも!きちんとした正答があったらどうする!そして誤答の順番でしてしまったらどうするつもりだ名前ッ!……くそっ、名字がないから格好良く締まらないな。けど、だからって鶴喰名前っていうのもそれはそれでどうなんだ。血のつながりなんて一切ないただの影武者だ私は!せめて鶴喰じゃなくて別の役だったら──

「……ん?」

──なんで、私は役なんて受けているんだ?

 ぴたりと、そこで思考が停止した。乱雑に喧噪となり果てていた思考の海が静まり返る。

 私は不知火じゃないから、役を受ける必要はない。でも、私は他の不知火と同じように戦闘の訓練をしたりして、まるで本当に不知火であるかのように過ごしている。

 私は、どうして役を引き受けたんだ。

 役を受けずとも、私は不知火でないのだから里と外とを自由に行き来できる。なのに、どうして──

「いいんだよ、私は君と仲良くしたい。理由はそれだけで十分だ」

「──え?」
 
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