シリーズ

□変われない
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 子供なんて喧しくて、我が儘で、突飛なことをするから、嫌い。

 だったのに。

 ……一概にそうだとは言えなくなってしまった。壁が呆気なくがらがらと崩れていく音がした。崩壊。

 掴んでいた襟を無意識に離すと、そこには皺ができていた。よれた襟を軽く正し、彼女は右手を私に差し出してきた。

「私は名前だ」

 握手だった。握手を求めてきている。

 私はその小さな手のひらを呆然と見つめていたが、はっと我に返って口を開いた。

「私は……傀儡です」

 そっと、恐る恐る自分の右手を差し出す。すると彼女は私の手を両の手で包み込んできた。

「冷たい手だ、健康管理を怠るなよ」

 彼女の、名前の手は温かくて、それこそまさに私の拒絶していたものだった。

 胸に何かがじんわりと広がる。それは、紛れもない安心感だった。

 そんな私の耳に飛び込んできた言葉は、まさに不意打ち。今思えば、ただからかってきただけだったのかもしれない。

「──よし、君のことはお兄ちゃんと呼ぶことにするよ!」

「どこがどう『よし』なんですかっ!?傀儡って呼んでくださいよ!名乗ったんですから!」

「年上だからお兄ちゃんに決まってるだろ!私は兄弟でも兄が欲しかったんだ!傀儡みたいに強いのがね!……まあ、別に君が嫌っていうなら、普通に傀儡って呼んであげてもいいよ」

「………」

 今の名前なら「三つ編み」という選択肢しか用意しなかっただろう。この辺りは、大きく変わってしまった。

 私はくすりと笑って、返事の代わりに名前にある提案をした。

「私はこれから善哉を妹に奢りたいのですが──ついて来ますか?」

 年相応の笑顔を見せて、「行く!」と名前は嬉しそうに声を上げた。

「甘いものは好きなんだ。あとは、お兄ちゃんの行きたいところに行けばいい」

 名前が壊されたのはその数日後、幻実が里に帰ってくる日のことだった。
 
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