シリーズ
□変われない
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身体が軽い。治るはずのなかったであろう痣すら消えかかっている。頬の痛みもすでにない。
しかし、それすら凌駕するような異常事態に私は、頭を抱えていた。
「私は受験生だ、勉強を教えろ」
「受験しませんから、勉強をする必要はありませんよ」
「でも錯悟くんは勉強してたぞ」
「同じ高校に行くと張り切っていましたからね。まあ、彼の受験は来年になりますが」
「へえ、錯悟くんは私より年下か……ふふ、いいことを聞いた」
昨日が酷すぎただけなのか、子供がなかなかにフレンドリーに接してくる。変わらないのは私の態度。いや、少しは柔らかくなったか。
「錯悟と仲良くなったんですか?」
「一人で格ゲーしているところに乱入してやったんだ」
「最悪じゃないですか」
「別に構わないだろ、ゲーム壊したわけじゃないんだから。それに友だちになった!」
しかし、わけが分からない。
「そんなに仲良くなったなら、錯悟のところに居ればいいじゃないですか」
何故わざわざ私のところに来てまでそれを言うのか。勉強道具を持っていないのだから、勉強をしに来たのではないなんてことは分かっている。
笑みを一ミリも崩さずに述べたそんな私に、子供は刃を突き立てた。
「知ってる。私が嫌いなんだろ、君は」
そう、例えるならばベルリン。ベルリンの壁だ。私の築いた壁に、子供は刃を突き立てた。持ち手がなく、全てが刀身であるために、手は傷だらけ。容赦なく子供が壁を崩すのを阻む。
その刃は私。
なのに、今日の子供はずっと笑っていた。