シリーズ
□変われない
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「なっ!」
一瞬の内に回り込まれた私は子供に押し倒されてしまった。強く背中を打つ。その際に、ひんやりとした空気が腹の辺りに触れたのが分かった。
捲れた裾を正したかったが、子供の指がそこに触れていて、どうすることもできない。この子供に危害を加えたら、罰を与えられるそうだから。
「……この傷は、何だ」
子供は震える声で言った。
「その質問にお答えすることは出来ません」
子供の体温が高いからか、指先はとても熱かった。まるで、融解でもするのではというくらいに。
私の返答に、子供が顔を歪ませて小さく呟く。
「少なくとも……私じゃないからな、私が殴ったのは頬だ──私は踏んだりなんてしていない」
今はここにいるものの、私の役はまだ終わっていない。潜木もぐらの影武者「潜木傀儡」。だから、腹に踏み痕がある。
もう慣れたものだったし、だからこそ放っておいて欲しかった。鈍麻したこの感覚を戻してほしくはなかったのだ。
「──そうか、わかった。手当てはしない」
黙ったままの私を見て、子供は持っていたものを床に置いた。ほんの一瞬だけ私に触れている子供の指が冷たくなり、身体が震える。
「……私のスキルをやる。返却は認可しない」
再び熱くなった指先は、私の腹に突き刺さった。