シリーズ

□それだけで良かった
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「最高だよ!君の狙撃の腕をスキルとさせて──」

 一瞬腕の内側に異物感を感じたかと思うと、彼女は突然僕のほうに倒れてきた。慌てて抱き留めると、ふわりと何かの香りがした。僕にはないような柔らかいもので、不覚にも耳が熱くなる。

「──すみませんね飯塚先輩」

「っ!」

 第三者の声に、思わず身体を固くした。すみませんというわりにはその意が感じられない。

 しかし、片腕で彼女を抱き寄せて向けた銃口の先にいたのは後輩だった。

「君は……一年の鶴喰だっけ?」

「いきなり猟銃を向けてくるなんて酷いじゃないですかー、やだなー。折角助けてあげたっていうのに」

「助けた……?まさか、スキルにするって本当に、ッ!?」

 突然手元から彼女が消えたかと思うと、鶴喰の腕の中にいた。本当に一瞬のこと。気付かないはずがないのに、気付けなかった。

 まさか、僕の視力と鼻が鈍ったっていうのか……!?

 酷く混乱する僕を鶴喰が笑ったような気がした。

「まあ、とにかく──名前は私が家に帰しておきますから、先輩はどうぞお帰りください」

 帰れと言っているみたいにしか聞こえなかったが、殺気を感じた僕は引き返すほかになかった。

「──今あったことは、お忘れ下さい」

 最後の声はまるで違って聞こえたけれど、そこにはもう誰もいなかった。
 
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