シリーズ

□勝てない
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「幻実くん頼む、この通りだ」

「えっと、」

 ほんの少しだけ頭を下げて頼み込む名前に、私は戸惑いを隠せずに眉尻を垂れた。頼みを聞くつもりではあるけれど、その前に尋ねたいことがある。

 けれども、名前はその隙すら私にくれずに姿勢を戻すと、眉を顰めた。

「友だちであるこの名前が頭を下げてまで頼んでいるのに……ふうん、そうかい!君は少し手伝うだけのことを断るのか……いいさ!友だちに冷たくしておいて、ゲームでせいぜいいいスコアとって浮かれていたまえ」

 言いたいこともできた。が、それでは埒があかないので、私は立ち去ろうとする名前の肩を掴んで呆れ声を放った。

「何をだよ」

 名前は再び腕を組むと、私を見下すような目を向けてきた。物理的には見上げてるけど。

「何をって……ふん、そんなことも分からないのか君は。幻実くんなら察してくれるだろうと思っていたのに。……まあ、私は優しいからね。ちゃんと説明してやるよ」

 何で頼む側が上から目線なんだ。

 しかも名前が優しいだって?それは断じてない。しかも上から目線に始まり上から目線で終わった!私は一体何を突っ込めばいいんだ。

 だがしかし、私の数少ない友達の頼みであるし、名前がツンギレであることは周知の事実。ツッコミを入れたところで、今更感が漂うだけだ。

「聞くからとりあえず座……ってるか、もう。うん……そのまま話して」

 立ち話もなんだからと着席を促せば、既にそうしていたという現実に私は頭を抱えたくなった。頼み事をするときでさえこの態度を崩さないなんて……ブレない奴だな!

「とりあえず、何があったんだよ名前」

 私としては一度くらい名前のペースを崩したいところだ。せめて私にデレてほしい。私の知る限りでは、名前はまだ誰にもデレていないから。

「……言彦に、負けたんだ。すっごく!かなりムカついたよ!なんたって初心者に負けたんだからね!この私が!……まあ、楽しかったといえば、楽しかったけどな。悔しかったが!」

 あー……私も今言彦に負けたよ。

 名前の初めてのデレを言彦にとられた。
 
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