シリーズ

□勝てない
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「はあ、成る程ね……意外と器用だったのか、言彦が」

 ゲームでコテンパンにされたらしい。しかも手足も出ないまま。名前だって相当やり込んでるってのに。

 そもそも言彦はあの巨体でどうやってコントローラーを操作したんだ……。今世紀最大の謎かもしれない。

「それで……お前はどうしたいわけ?」

「言彦に勝ちたい!」

 わー、どこかで聞いたことのあるような台詞。いや私は聞いたことないけど。

「……とりあえず、ゲームを立ち上げてから、何をどうしたのか説明してもら」

「それは無理だ。ゲームを始める前に言っておく。私は言彦と少しだが対戦した。いや、対戦したというよりは、全く一方的なものだったんだが──ありのまま、さっき起こった事を話すよ」

 二次元のほうで確実に聞いたことのある言い回しで、名前は話し始めた。

「『私はあいつを追い越したと思ったら、いつの間にか負けていた』──何を言っているのか分からないと思うが、私も何をされたのか分からなかった……」

 くそっ……、と本当に悔しそうな様子で拳が固められる。

「……頭がどうにかなりそうだったよ、この私が負けるだなんてさ!この名前がッ!チートだとか超スピードだとか、そんなチャチなものじゃあ断じてなかった……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったよ」

「……うん」

 もしかすると、力任せにコースアウトして物理的に車を飛ばしたのかもしれない。

「あれは天性の才だ……」そう呟く名前を見て、「これはただのゲームじゃ勝てそうにないな」と私は言彦のゲームの才能を恐ろしく思った。
 
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