シリーズ

□そこにいるだけで
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 喉が痛い。だいぶめちゃくちゃなことを言ってることに気付いた私は、掠れた声で「ごめん」と謝った。息が苦しい。

 本当は、ここまで言彦に当たるつもりじゃなかったんだ。あいつらにだって……むかつきはしたけど。でも、駄目なんだ。

 元はといえば私は、親に勘当されて不知火の里に迷い込んできたただの部外者だ。本当なら──

「お前は、ここにいるだけでよい」

「……!」

 それは。

 ふいに地面に降ろされ、頭に大きな手が乗せられた。

「……、言彦」

 それは、私の欲しかった言葉だ。はっきりとした言葉。

「迷惑だとか、そんなことは誰も思っとらん」

 そうでなければ、とゲームの入った袋を指差されて、私の頭は少しだけ正常になった。言彦の言葉は、妙に説得力があるのだ。適当さとか勘違いとかが目立ちはするが……それはそれ、これはこれだ。

「………」

 むかつくが、何だかんだいって押さえ込まれているのは私のほうだ。言彦ではなく、私。

「実は」と口火を切る。

「二人が帰ってくるまでまだ一時間以上はかかるんだ」

 私は言彦の手を掴んだ。

「そんなにほっとかれたくないなら、私と遊べよ」

「この言彦をからくり遊びに誘うとは!新しい!……だが、」

 私の身体は再び持ち上げられてしまった。にいっと言彦が口端を上げる。

「その前に、その枯れた喉を潤さなければな。げっげっげ、川へ行くぞ」

「べ、別に平気だが、丁度喉が渇いてきたからな……大人しく連れて行かれてやるよ」

 落とされないことを承知の上で、私を持ち上げているその手にしがみつく。むかつくところはありすぎるが、別に嫌いなわけじゃない。

「お前だけは……壊しても面白くないのだ」

 蜃気郎の言っていた通りにしてもいいかもしれないな、と思ってしまったのは、きっと気のせいだ。
 
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