シリーズ

□そこにいるだけで
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 でも、あいつはここの人間の中でも強いほうの部類だ。本武器は銃だが剣の腕も一流で、稽古で私があいつに勝てた試しはない。

 そうでなくともあいつを殺すのは無理だという諦めから、息を吐く。それを見てか、言彦が笑い出した。

「お前が黙りこくるとは!新しい!」

「耳が痛いじゃないか!トーンを落とせ!トーンを!」

 大体、私は戦闘向きじゃないんだ。スキルだって一応持ってはいるが、半纏に比べたらなんてことない。とりあえず、「言彦に対抗できる」とだけ言っておこうか。

 それなら自分で出ろという話になるが、そういう「対抗できる」じゃあないんだ。正しくは、「言彦の 破壊 に対抗できる」だから。

 何だこの詰みゲーは。

 そうこうしている間にも言彦はどこかへ向かって歩いている。掴まれている私の目線は当然高く、まるでガンダム。

 いや、ガンダムだったら移動時の揺れで死ぬはずだから違うな。まさか、ガンダムより言彦のほうが乗り心地がいいとは。

「大丈夫!?名前ッ!」と、傀儡だけでなく言彦の件に関しても諦めかけた私の耳に、知る声が届いた。

「蜃気郎……!」

 思わず感動というものを覚えかけた。この私が。だとしたら奇跡なんてそんなチャチなものじゃない。

 でも、こうしたピンチの時に駆けつけてくれるだなんて、見直したぞ!

「まさかお前が来てくれるとはな!傀儡と一二を争うほどムカつく奴だけど……まあいいや。ところで、八歳の幼女が好き発言をしたんだって?役だろうと私だったら無理だね!それはともかくとして──とにかく助けてくれ!」

「安心して!手伝ってあげるから!」

「……は?手伝う?」

 話が食い違っている。会話のドッジボールをしに呼んだんじゃあないぞ私は。思わず、そう声を漏らした。
 
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