シリーズ
□そこにいるだけで
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「……名前」
「なんだよ、言彦」
どう返答したものかと耽っていたところを呼ばれ、私は反射的に返事をした。
「げげげ、花嫁修行は不要だ、問題ない」
「なッ……!お……お前まで何言っているんだ……!」
言彦が変なことを言い出したのは絶対にあいつのせいだ……!
あいつはどこにいった!さりげなく周りを見渡すも、蜃気郎の姿はない。蜃気郎どころか、傀儡、他の誰もいない。
それより。
「………」
今の言葉を聞いて……どうしても今、言いたくなったことがある。前々から言ってやりたかったことだ。
「初めて会った時に人の 感情 を壊しておいて……お前は何を言っているんだ」
じろり、と私は言彦のほうを向いた。
「君のおかげで!私の情緒はいつだって不安定なままなんだぞッ!」
蜃気郎の言葉に乗っただけだなんてことは分かっている。分かってはいる、が……冗談でもその発言を認可するのは難かった。
「外にいるときは構わないさ、役に嵌っているからな。でも!少なくとも里(ここ)にいる間は私なんだ!他の誰でもない、この名前だッ!」
ぜえぜえと肩で息をする。こんなところをまた見られたら、幻実くんに「お淑やかにしてろよ」と小言を言われるだろう。
怒鳴りすぎたせいで、もう渇いた声しか出なかった。
「……でも、私は迷惑をかけてるんだ……中途半端に構ってくれるくらいなら、私を壊せばいいじゃないか……!」