ミモザの咲く頃に
□第4章 小さなミモザ
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アスランは慣れた様子でアスハ邸の庭を歩いた。
すごく高い木の上や、虫でも居そうな茂みの裏側に目をやりながら進んでいく。
アスランが確認していく場所にカガリが居た事があったのかと思うと、エリカはあきれ果てた。
ふとアスランが立ち止まる。
「これって・・・」
庭の一角にある小さな木に、黄色い花が咲いている。
「ミモザね。植えてからあまりたってないのかしら、まだ小さいわ。」
「そういえばカガリが言ってた。ミモザを庭に植えたって。一年程前にイタリアで買った切花だったんです。」
エリカはしゃがんで花に見入った。
「挿し木したのね。アカシア系の植物は強いから。」
「根付いて、大きくなって・・・頑張ったんだ。」
何か別の事を考えながらつぶやくアスラン。
エリカはちらっとアスランを見た。
「・・・深く考え込まないの。カガリが医者に診断された訳じゃないんだし。私が言ったのは最悪の場合の、仮定の話よ?」
エリカはポンッと彼の背中をたたく。
「もしそうだったとしても、今回の事は頑張る頑張らないって話じゃなかったのよ。誰も悪くないの。前向きにいきなさい。」
「は、い。」
返事はしたものの、アスランは沈んだまま。
その時屋敷からバタバタとカガリのSP達が出てきた。
はっとして、アスランはSPの方に駆け寄る。
「スミマセン、ひょっとして代表に何かありましたか?」
SPは驚いてザラ准将を見る。
「も、申し訳ありません。代表と一緒にいるはずの若いSPと、連絡が取れないんです。」
アスランは少し考えこむ。
「謝らないで下さい、責めている訳じゃないです。代表の現在位置は?」
「それが・・・東海岸の方を移動中です。」
アスランは目を細めた。
「連絡の取れないSPも一緒ですか?」
「はい、同じ位置にGPSの反応が。」
「そうですか。SPをひとり連れて歩いているのなら大丈夫かな・・・。今から追うんですよね?我々も同行させていただいてもよろしいですか?」
同意してくれたので、アスランの車はSPの車を追走する形となった。
「ホントに大丈夫なの、カガリは?」
オープンカーの風に吹かれながら、助手席でエリカが聞く。
「えぇ、たぶん。代表の一人歩きは危ないから、脱走する時はちゃんとSPを付けろって、ボディガードをしていたときに約束したんです。カガリが約束を守ってくれていてよかった。」
エリカは小さく噴出した。
「何だか貴方、キサカさんにやり方が似てきたわよ。彼もよくカガリの家出や、無茶な事に付き合ってたわ。基本、カガリを止めないでサポートするのよね。」
アスランは困ったような嬉しいような複雑な笑みをうかべる。
「カガリは止めたって聞きませんから。俺はまだまだキサカさんにはかないませんよ。」
「昔、貴方がボディガードになったときは驚いたけれど、正解だったわね。」
エリカは温かい笑みをアスランに向けた。
「貴方はカガリを良く守ってくれてる。キサカさんとアスラン、大の男をふたり手玉にとって・・・カガリは幸せな子だわ。」
エリカが髪をかきあげると、薬指の指輪が輝いた。
(何だ今の光。)
アスランは注意深く周囲に気を配る。
アスラン達の後ろを走っていた車でフラッシュが光った。
サイドミラーで確認しながら、アスランは車のナンバーを見る。
(つけられてる・・・あのナンバーはレンタカーか?)
「どうしたの?」
エリカが黙りこんだアスランに聞く。
「何でもありません。」
アスランは何事も無かったように運転を続けた。
東海岸を進むカガリの車。
「もう帰りませんか、だいひょお!」
無理やり脱走に付き合わされたSPが泣きを入れる。
「もう少し付き合え。客が家にいる間は帰りたくないんだ。」
カガリが仏頂面で言った。
「自分、クビになってしまいます!」
「ならないぞ。私が脱走するたびにSPを首にしていたら人が足りなくなる。」
SPは驚いて、バックミラー越しに代表を見た。
「代表はそんなによくお忍びで抜け出されるのですか!?代表のSPになって一年、自分こんな事は始めてです。」
「そういえば・・・ここ一年、脱走はしてなかったな。」
カガリは考え顔。
(時間ができたらアスランばっかりだったから。)
メールして、電話して、アスランが引っ越してからは家におしかけて。
「代表?」
静かになった後部座席を不思議に思い、SPが呼びかける。
ケンカしてから、彼にメールもしていない。
この所ちょっと時間ができてしまって、不機嫌なカガリ。
「ひょっとすると、黙って出掛ける事が増えるかもしれない。お前、これからもよろしく頼む。」
「!そんなぁ・・・。」
若いSPはとんでもない上司に見込まれて途方にくれる。
結局その日、3人は話をする事ができずに終わった。