花は咲き種は唄う

□第4章 第三勢力
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宇宙の闇を新型のラゴゥで駆けるバルトフェルドは、その唇に微かな笑みを浮かべていた。
義手義足となった時、戦士としての自分は終わったのだと諦めていた自身の中に、まだこんな感情が残っていた事に動揺する。だが高ぶる気持ちを抑えられない。

おそらく自身最後のモビルアーマー戦になるであろう戦いの相手は願ってもない好敵手だ。

宇宙の暗闇に星の光を集めたようなアカツキがたたずんでいる。ミーティアの攻撃による損傷が多少見られるが、反応速度を見る限りまだまだ戦えるだろう。五体不満足の自分にはおあつらえ向きの相手に見えた。

「さぁ!やろうかキサカ君」

ブーストを効かせた新型ラゴゥは一気に敵との距離を縮め、口にくわえるサーベルがアカツキに襲いかかる。

アカツキは盾でサーベルを受けると、接触した部分から直接通信を流し込んできた。

「随分と青臭い初手だなバルトフェルド」

上ずるキサカの声の中に、バルトフェルドは戦闘心の高ぶりを見出す。

「青臭いのはお互い様だろう。キミも初陣の若者みたいに声が震えているじゃないか」

サーベルの威力を半減させる角度に盾が動いた事でで、アカツキとラゴゥの接触は解かれた。

(いらだっているねキサカくん。キミもこの戦いに想いがあるのだろう)

若者に道を開けようとする古参の兵の気持ちは痛いほどわかる。

(だが、いささか死に急ぎ過ぎている)

ラゴゥの背中から上方へ撃ち出された砲撃は、弧をえがいてアカツキに降り注いだ。

(オーブの為に自分を犠牲にしているつもりのようだが)

アカツキは瞬時に廻り込み、ラゴゥの砲撃を自分の砲撃で相殺した。

(キミはまだアスハ代表の側にいるべき人だ)

今度はアカツキから砲弾が飛んでくる。

(お嬢ちゃんの手綱はアスラン一人じゃ取れないぞ)

砲弾の追跡機能を利用しラゴゥの機体に引きつけ、アカツキの懐に飛び込んだ。

「そんな事がわからないキミじゃないだろう!」

ラゴゥは直前でひらりとアカツキを飛び越える。
アカツキは砲弾を盾で防いだが、いくつか被弾した。

アカツキの一瞬のスキをついて、ラゴゥは再びサーベルで切りかかった。
盾の逆側から攻撃をされたアカツキは、それをサーベルで受けようとする。
アカツキの反応が遅れた事に、バルトフェルドがヒヤリとしたその時、ラゴゥとアカツキの間にアストレイが割り込んで止めた。
モビルスーツ3体分の剣と盾がぶつかり合い、衝撃が走る。

再び通信が送られてきた。
操縦席にキサカの声が響く。
「ゆるい攻撃だな。砂漠の虎ともあろう男が」

自分の考えが杞憂である事を望み、虎は返す。
「挑発かい?あまり本気でやったら、死に急ぐキミにとどめを刺す事にならないか危惧している」

キサカは否定せず静かにつぶやいた。
「・・・頼まれてくれないか、アンディ」

バルトフェルドは眉間にシワを寄せた。
あぁ、やはりこの男は死ぬつもりだったのか。
プラントと連絡を断ったのは、ラクス様がそれを許さないと分かっているからだろう。

ムゥが会話に割って入った。
「それがあんたの答えか、キサカさん」
「深入りするなフラガ大佐」

酷く沈んだ声でバルトフェルドが問う。
「自分の死で、最愛の人を守ると?」
「・・・最愛の人じゃない。生涯をかけるに値した主だ」

「そういう事にしておいてあげよう。なら生涯をかければ良い。約束は有効だ」
バルトフェルドはキサカではなく、近くをさまよっていた氏族の乗るモビルスーツを捕縛する。

「ムゥくん、そっちを頼めるかな?」
「そっちって・・・あぁ、そういう事になっているのか」
ムゥはクライン派の乗るモビルスーツを確認する。
「あれのパイロットは生きているのか?」
「どちらでも構わない、どうせこの闘いの責任をとって貰うことになる」
「ふぅん、キサカさんには責任取らせてあげない訳?」

キサカのサーベルから力が抜けた時、3人は絡み合っていた武装を解く。

バルトフェルドはアカツキに一瞥を投げ、氏族のモビルスーツを引きずるように連れて行った。

アストレイはアカツキをクライン派のモビルスーツの方へ押し出し、通信を送る。
「モビルスーツの捕獲ってキサカさんがやる予定だったんじゃないの?」
「あぁ・・・」

キサカの力ない返事に何と返すべきかムゥは迷う。
「バルトフェルドが言う約束ってのがあるなら、アンタがやるべきだろう」

ムゥは静かにキサカの様子を伺う。
ぎこちなく動いたアカツキが、クライン派のモビルスーツを捕獲した。

ホッとしたムゥはクサナギに連絡を入れる。
「敵機体、アカツキにより捕獲。ザラ准将、指示を」



新たな被害の報告が無かった事に、アスランは安堵する。
「アカツキとアストレイは敵機体をクサナギヘ連行して下さい」
「了解しました」

アスランは敵を捕獲したキサカからではなく、ムゥから通信が入った事を不思議に思って声をかける。
「キサカ大佐、ケガはありませんか?」
「大丈夫です・・・詳細な報告は帰艦後に」
「わかりました。無理せず戻ったら休息をとるように」
「了解」

アスランはキサカの力ない様子に何かあったではないかと不安になった。
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