オーブと君の笑顔
□第6章 恋人
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夜遅い帰宅となったので、アスランはカガリをアスハ邸まで送ってきた。
マーナが玄関扉を開けて二人を出迎える。
「遅くまでお疲れ様でした。ご夕食は召し上がりましたか?」
「まだだ。アスランも食べてないんじゃないのか?」
「うん、俺も食べ損ねた。でも明日は早いし、もう帰って寝るよ」
二人のやり取りを聞いていたマーナは、扉を大きく開けてアスランを招き入れる。
「そんなことおっしゃらずに、少しでも召し上がってください。すぐに食事をご用意しますから」
カガリもアスランの背中を押した。
「マーナもこう言ってるし、あがっていけよ」
アスランは断る間も与えられず、女性二人に無理やり食卓へ着くように言われる。
マーナが用意してくれた暖かい夜食を二人で食べながら、アスランは奇妙な感覚を覚えていた。
十代の頃このテーブルで食事を取っていたときは、場を借りているような居心地の悪さを感じていたが、今はゆったりと心地良さをおぼえる自分がいる。
アスランの手が止まっているのを見て、カガリは不思議そうに首をかしげる。
「どうしたアスラン?食欲無いのか」
「いや・・・ここの食卓で、君と二人で食べるのもいいもんだなって」
カガリは少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめん、昔はアスラン一人で食べさせたりしたよな」
カガリに気を使わせてしまった。
自分にあきれて、アスランも苦々しく微笑む。
「いや、俺に力がなかったんだ」
「力が足りなかったのは私も同じだ。十代の頃はどれだけがんばっても全然足りなくてって・・・今もそうだけれど」
カガリは無意識に、壁に飾られている写真を見る。
写真の中で笑っている父親を見つめて、少し思いに沈んだ。
食後の紅茶を持ってきたマーナがそんなカガリの様子を見て、心配そうな表情を浮かべる。
「・・・何かあったんですか?お嬢様」
カガリは我に返って、なんでもないという風にマーナに笑いかけた。
「いや、アスランと昔の話をしていただけ・・・やめよう!今はふたり一緒に食べられるんだし」
アスランも同意する。
「あぁ。せっかくマーナさんがおいしい紅茶を入れてくれたんだから、頂こう」
カガリが思い出したように立ち上がる。
「この間頂いたお菓子、ちょっと食べようかな」
マーナがお菓子を取りに行こうとしたが、カガリはそれをやんわり止める。
「私の部屋に置きっぱなしなんだ。自分で取ってくる」
カガリは2階の自分の部屋へと上がっていった。
マーナがアスランの方へ近づいて声を落す。
「本当にお嬢様、今日は何も問題ありませんでしたか?」
アスランに思い当たる事はなかった。
「えぇ。特には無かったと思いますけれど・・・」
「お嬢様がウズミ様の写真を見て考え事をするのは、国政の事で悩んでいる時が多いんです」
アスランはウズミの写真を見つめ、心配そうな顔になる。
カガリには何か悩み事があるのだろうか。
マーナは遠慮がちに聞いてきた。
「アスラン様、明日はお早いんですか?」
「はい、早朝から出張でプラントへ行きます」
マーナの表情が明るくなる。
「では今夜はこちらにお泊りになられてはいかがですか?その方が軍港も近いですし、明日の朝も少しゆっくりできますわ」
アスランはマーナの申し出に驚き、遠慮した。
「いえ、そういう訳には・・・着替えを取りに自宅へ戻らないと、」
「着替えでしたら、この前お泊まりになった時のものがございます」
マーナの言う『この前』とは、アスランが公開告白してマスコミに囲まれてしまい自宅に帰れなくなった数日間にアスハ邸で世話になったときの事だ。
困惑の表情を浮かべるアスランに、マーナが頼み込む。
「お嬢様が何に悩んでいらっしゃるのか聞いてみてくださいませんか?・・・アスラン様はしばらくオーブへお戻りになれないのでしょう?」
そう言われると、アスランも気になってきた。
カガリに悩みがあるのなら、自分も知っておきたい。
アスランは立ち上がった。
「それではお言葉に甘えさせていただきます」
マーナはホッとしたように、紅茶をトレイにのせる。
「是非お願いします。紅茶はお嬢様の部屋に運びましょう」