オーブと君の笑顔
□第5章 戦友
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深夜、マリューがベッドで横になっていると外から口笛が聞こえた。
独特な口笛は、遠く昔に聞いたことのある音色。
(これって、まさか?!)
マリューは寝巻き姿のままガウンを羽織って、窓へ近寄る。
すると窓の下に立っていたのは、バルトフェルドだった。
マリューの姿を見て、バルトフェルドが片手を上げ、玄関の方を指差す。
驚いたマリューは急ぎ玄関口を開けた。
闇夜、滑り込むようにバルドフェルドが家の中に入る。
「こんばんはマリュー、よく口笛に気付いたね。インターホンを押していいものか迷っていたんだよ」
困惑気味のマリューが質問する。
「驚いたわ、オーブに来ているなんて知らなかった。電話してくれれば私の方から出向いたのに」
口元に手をあて、彼は考え顔。
「いや、調べ物が済んだらすぐにプラントへ帰る予定だったから、オーブへ来ることはあまり知り合いにも言ってなかったんだけれど・・・ちょっとイレギュラーがあってね」
マリューの表情が曇る。
「イレギュラー?・・・あなた今、電話もできない状態なの?」
バルドフェルドは首を振った。
「そうでもない。傍受されているかもしれないから、念のためだよ」
マリューは少し安心する。
「お茶でも入れるわ。何か話があるんでしょう?」
バルドフェルドは片手を挙げて遠慮した。
「いや、すぐ消えるよ。ネグリジェ姿の君と夜にお茶なんて、ムゥにしかられそう・・・新鮮だな。昔は君、パジャマだったのに」
マリューは少し気まずそうにガウンの前開きを閉じた。
「ラクスさん達と暮らしていた頃は私、動きやすい格好をしていることが多かったわよね。深夜の襲撃もありえたから」
バルドフェルドは微笑む。
「そうか・・・ネグリジェは平和になったって証拠か」
そしてなぜか、瞳を伏せた。
マリューは真剣な表情で質問した。
「アンディ、何だか変よ?何があったの」
「これから、」
バルドフェルドは声を落とす。
「たぶん、オーブで揉め事が起こる」
マリューは大きく瞳を見開いた。
バルトフェルドはマリューとの距離をつめる。
「・・・君は信用して、いいんだよな?」
「もちろんよ!」
マリューとバルトフェルドには、大戦の狭間の2年間ラクスとキラを守った絆がある。
「ねぇ何が起こるの?信用していいかって私に聞くって事は、揉め事を起こすのはオーブ内部の人間なの!?」
バルトフェルドは困ったように視線をそらした。
少し考えてから言葉を選ぶように彼は答える。
「・・・まだ全容が見えてこないんだけれど、君にお願いがある」
二人は見つめあった。
「アスハ代表を守って欲しい」
「カガリさんを?」
「できれば24時間体制でね。お嬢ちゃんとアスランにも連絡したかったんだけれど、二人とも捕まらないんだよ・・・アイツらどこほっつき歩いてるんだか」
マリューの声が少し大きくなる。
「捕まらないって、二人とも行政府に居るはずでしょう?」
「だろうな。オレには入れない関係者以外立ち入り禁止箇所に居たのかもしれない」
バルトフェルドは扉に手をかけた。
「じゃ、頼んだよ・・・時間がないんだ。急にこんなお願いしに来て申し訳ない。失礼するよ」
マリューは心から心配した様子で、バルトフェルドの背中に言葉をかける。
「気をつけて。あまり無理しちゃ駄目よ?こんな事言っても、あなたは無茶するんでしょうけれど」
バルトフェルドは振り返って微笑んだ。
「そういう甘い言葉は、部屋の奥に隠れてる奴に言ってやれよ」
そして奥の部屋にも聞こえるように、はっきり別れの挨拶をした。
「深夜にお邪魔しました。またね、ムゥ君」
玄関扉が閉まる。
それと同時に、慌てふためいたムゥが奥から出てきた。
「あいつ、オレには一言も無く帰りやがって」
「あら一言かけたじゃない」
「まったく、気付いているんなら俺にも早く声かけろよ」
「遠慮したんじゃないかしら。貴方の家のインターホンを押して良いか迷ったって言ってたし」
「何を遠慮する必要があるっていうんだ。一緒に戦った仲間だろう!」
マリューは朗らかに笑った。
「そんなムゥだから、声を掛ける必要が無いと思ったのかもしれないわね。信頼されてるのよ」
「信頼、ねぇ」
ムゥはチラッとマリューの方を見る。
「間違いなく、君の方が信頼されてたみたいだけれど」
マリューはムゥの頬にそっと手を添えた。
「バカね。私たち二人とも信頼していなければ聞こえる声でしないわよ、あんな話」
二人は不安をのせた瞳で見つめあう。