ミモザの咲く頃に
□第9章 正式な申し込み
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通信班ブース内にいる音響係のもとへ、ラクス達は移動する。
「申し訳ありません、ジャスティスの音声通信を会場に流す事は可能ですか?」
突然プラント議長に話しかけられ、オーブ軍の音響係は驚きながら頷いた。
ニッコリ微笑むラクス。
「できれば2秒遅れで流してください。お願いできますか?」
音響係は躊躇したが、ラクスの後方にいたキサカがうなずくのを確認する。
議長の願いに答えるべく、音響係は制御系のパソコンを操作し、準備に入った。
それを見ていたキラが、ラクスの考えを理解する。
「どうせなら映像つきがいいんじゃない?本部ブースの大型モニターにカガリの映像を出そうよ。長老達に見えるでしょ。」
映像制御係の肩をたたき、席を譲ってもらう元准将。
キラは大型モニターのコントロールを掌握した。
「キサカさん、カメラ持ってる人に、カガリを映すように言ってくれませんか?」
キラの言葉にキサカは了解して、インカムで映像記録班に連絡を取る。
「もしカガリさんの返事がNOなら、すぐに音声も映像も止めましょう。長老方に対して逆効果になりますから。」
「オーケー。映像もきっかり2秒遅れで流さなきゃ。」
ラクスと話しながら、キラは映像制御を次々と解読し、設定をかえていく。
アスランはひとつ深呼吸。
エリカの言葉を思い出していた。
『カガリ言ってたわ。検査薬の色が薄く出たって。』
存在したかもしれないんだ。
ほんの数日だったけど。
『色が出たって事は妊娠してホルモンバランスが変わっていた可能性があるの。』
俺とカガリの欠片を受け継いで、
産声をあげようとした命が。
『もしそうなら、一番難しい受精と着床まではできた事になるから、あなた達きっといつか、子供をもてると思うわ。』
忘れないよ絶対に。
一生覚えている。
『・・・前向きに考えなさいね。』
ありがとう希望をくれて。
俺が子を成す事など無いと思い込んでいた。
失ったかもしれない命に応えるためにも、カガリは他の男に渡せない・・・!
アスランは深く息を吸った。
〈カガリ・ユラ・アスハ!〉
キィーンというハウリング音とともに、力強いアスランの声が通信班ブースに届く。
ラクスがうなづいた。
音響係がスイッチを入れる。
2秒遅れで会場にアスランの声が響いた。
《結婚を前提としたお付き合いを、》
息を呑んだアスハ代表の表情がスクリーンに映し出される。
《貴女に申し込みます・・・!》
カガリが琥珀を大きく見開いた。
静まりかえった会場に、少し遅れて民衆のどよめきが細波の様におこる。
「アスラン言った!・・・でも、なに、この中途半端な申し込み?」
キラとラクスは手をとりあった。
「これが今のアスランの精一杯なのでしょう。カガリさん、返事は!?」
続いて、少し涙を浮かべて微笑む映像とともに、泣きそうなカガリの声が会場に響いた。
《・・・はいっ・・・!》
ワァッ!!!
会場から大きな歓声や奇声が上がった。
キラが嬉しそうに、歓声に負けないくらい大声で、ラクスに話しかける。
「おおむね賛成の歓声なんじゃない!?」
「これなら長老達も、無視はしづらいでしょう!」
キサカは長老達に視線を向ける。
(ここまで派手にやられたら、揉み消すのは無理だろう。さぁ、どう出る、ずっとふたりの付き合いに難癖つけてた爺さん達。)
氏族の長老達は驚いて固まっていた。