ミモザの咲く頃に

□第2章 コーディネイターの苦悩
3ページ/3ページ

彼女の体が心配で、どうすればトイレから出てくるか、彼は必死で考えた。
カガリのお腹に子がいるのなら、一刻も早く医者に診せたい。
先程の彼女の症状が、アスランを焦らせた。

トイレでぐずり続ける国家代表に、アスランは伝家の宝刀を抜く。
「女の人ならいいんだな?じゃぁ、マーナさんに来てもらおう。」

驚いたカガリは目を見開いた。
「なっ、オマエ、マーナの携帯番号なんか知らないだろう!?」
もう夜も遅い。アスランは連絡を取れないはずだ。

アスランはちらりと床に転がっていたカガリの鞄を見る。
「非常時だ。出てこないとキミの携帯端末を借りる事になる。」

(あ・・・)
カガリは倒れた時に、鞄を置いてきてしまったことに気付く。
「・・・端末にはロックがかかってる!使えっこない!」

はぁっ、と大きくため息をついてアスランは鞄を拾い上げた。
「こんな事はしたくないが・・・出てこないキミも悪いんだからな。」

アスランはカガリの携帯端末を鞄から取り出す。
そしてロックの解除を試みた。
(カガリの誕生日・・・違った。電話番号・・・違う、そんな単純じゃないか。・・・俺の誕生日・・・違った、くそっ。)

静かになった扉の向こう。カガリはあせり始める。
「おい、止めろ、いくら恋人同士でも、勝手にロック解除するのは失礼だろう?」

恋人同士という言葉に気を良くしたアスラン。
(カガリあせってる・・・俺に知られたくないパスワードなのか・・・?)

アスランはふと思いつき、8桁の文字列を入力する。
ロックは解除された。

それはふたりが初めて出会った日の、年号と日付。

ケンカでイライラしていた気持ちは、アスランの中から一気に消え去った。
(カガリ・・・)
頬を上気させながら、アスランはアドレス帳のマーナの名を探す。

だが、先にエリカ・シモンズの名を見つけた。
(マーナさんはもう寝てるよな。シモンズ主任は起きてるかも。)

アスランからカガリへの最後通告。
「カガリ、出てこなくていいんだな。電話するぞ?」

ビックリ顔で固まるカガリ。
(え!?ロック、解除しちゃったのか・・・?)
カガリはきまりが悪くて、両手で顔を覆った。

返事が無いのを待って、アスランはエリカに電話をかける。

3コールでエリカは出た。
〈もしもし?どうしたの、こんなに夜遅く。〉

「・・・夜分遅く申し訳ありません。アスラン・ザラです。」

声の主に驚いたエリカ。
〈ザラ准将?なぜ代表の端末から連絡を?〉

「話せば長いのですが・・・とにかくちょっと急ぎの相談です。カガリがさっき苦しそうに倒れて、」
〈えぇ!?〉

「今はもう大丈夫そうなんですが、病気じゃないって言い張るんです。」
〈病気じゃない・・・?〉

「女の人ならわかるって言ってます。カガリを説得してくれませんか?体調が悪いのに彼女トイレに入ったまま出てこないんです。」
〈トイレ、ねぇ・・・〉

エリカはなんとなく状況を察した。
〈カガリが倒れたのは、貴方の家?〉

「あの、その・・・」
アスランは気まずそうに言葉を濁す。

ウブな准将の反応に小さく笑うエリカ。

だが、彼女は別の事が気になり始めていた。
〈・・・急ぎかも知れないわね。単刀直入きかせて貰うけど、ひょっとしてカガリの生理は遅れていたの?〉

思わず耳から離して、携帯端末を見つめるアスラン。

この手の会話は自分の最も苦手とするジャンル。
年上の女性に切り込まれて、アスランは途方にくれた。


(つづく)
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ