ミモザの咲く頃に

□第1章 ディアッカの借り
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プラントの会員制ホテル。
ふたりの男が支配人に伴われて廊下を歩いている。

不機嫌なイザークが質問した。
「何処へ連れて行くつもりだ、ディアッカ。」

眉根を下げてディアッカが答える。
「もうちょっとで着く。俺も断れなくてさ、頼むよ。」

「お前に頼み事をされると、ろくな事が無いからな。」
銀髪を振りかざして歩いていると、通りすがりの部屋から声が聞こえた。

「お嬢様はまだいらっしゃらないのですか?お見合い相手の方がお待ちかねです。」

イザークが怪訝な顔で立ち止まる。
「・・・おいディアッカ、まさか俺を騙して無理やり見合いをさせようなんて事じゃないだろうな?」

前を歩いていたディアッカが、マズイっという顔をして止まった。
「バレた?ジュール家のマダムに頼まれちゃってさ。」

一年前、ディアッカはジュール家の老婦人に借りをつくった。
イタリアでアスランに切り札として提供した船を借りたからである。

イザークに良縁を結びたいという老婦人の願い。
頼まれたディアッカは断る事ができなかった。

何とかしてイザークを見合いの場に連れて行くのが、ディアッカの役目。

「ここまで来たんだ、腹くくってくれよイザーク。」
作り笑顔で振り向くと、イザークは今来た廊下を戻り始めていた。

「そんな茶番に付き合う気は無い、帰らせてもらう!」

ディアッカは慌てて追いかける。
「おいちょっと待て!先方になんて説明すれば良いんだよ!」

「気が変わって帰ったと言っとけ!そんな失礼な男は破談にするだろう!」
イザークは廊下の角を曲がった。

「そんなことしたら、お前の評判が下がるぜ!」
ディアッカもイザークを追って角を曲がる。
だがそこには誰もいなかった。

「イザーク!?逃げるなよ!」

ディアッカの声が遠ざかっていく。
手近な一室に入り、イザークは追っ手をかわした。

「あなたは!?」
女の声がする。

部屋には誰もいないと思っていたイザーク。
驚いて顔をあげるが、部屋に人影は無い。

「下です、下。」

声の方を見ると、女がいる。
部屋の真ん中にあるテーブルの下からクロスをまくって顔だけ出し、こちらを見ていた。
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