僕と彼女と紫水晶

□第8章 ガールフレンド
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ふたりはキラの部屋に入る。

「さっ、はじめて。まずは電子工学の問題集から。」

ビックリ顔でアスランを見るキラ。
「え?今から!?」

「そうだよ。早く座って。」
アスランはまだ氷のような表情で、迫力があった。

キラは黙って従う。
(これから毎日、こんな風にアスランに見張られるのかな。)

「アスラン、あの・・・」
「いいから、早く手を動かして。」

「ここ、わかんないんだけど。」
「・・・一問目からわからないなんて。キラ、ちゃんと授業を聞いてたの?」

キラは学校で誰よりも理解が早い。
ただしそれは授業をちゃんと聞いていればの話だ。

アスランはキラのそばに来て、丁寧に教えてくれた。
キラの苦手な部分がわかっているアスランは、少し偏った教え方をする。
だがキラにとっては、学校の先生に教えてもらうよりもわかりやすかった。

「アスラン、電子工学ホントに詳しくなったよね。」
「好きだから・・・。」

「大人になったら、電子工学の仕事ができたらいいね。」

アスランは女装のキラに自分の夢を話した事を思い出す。
「・・・キラは上の学校に行くって言ってたね。」

キラは椅子をクルリと回してアスランのほうを見る。
「一緒に上の学校に行こうよ、アスラン。」
その目は本気だった。
「15歳で仕事に就くなんて、早すぎない?」

アスランは黙った。
キラが悲しむだろうと思って、今まで進路の話はしなかったのだ。
自分としては、プラントで父を手伝いたい気持ちがある。

だが、アスラン自身にも、まだ迷いがあった。
コペルニクスの生活は幸せで満ちている。
自分を家族の一員のように受け入れて、沢山の幸せをくれるキラとヤマト家を、アスランは大切に思っていた。

母上は言った、自分の好きな道を行くのが一番良いと。
考える時間は、まだある。

「・・・ずっと先の話だよ。」

キラがアスランの手首をつかむ。
「はぐらかしてるんじゃ、ないよね?」

キラの表情は真剣で、アスランもちゃんと答えるべきだと感じた。
「僕もまだ、迷ってる。プラントに帰ると決めたわけじゃない。」

キラの瞳が緊張を解いた。
「アスランとは、ずっと一緒にいられると思ってる。そうなるといいな。」

アスランは微笑む。
「そうだね。」
ここでふと、アスランは思い出した事があった。
「でも・・・お互いいつかは、好きな女の子をもった方がいい。」

キラはビックリして大声を出した。
「アスランがそんなこと言うなんて思わなかった!」

苦い顔をしてアスランが言う。
「ダブルデートの話をしたくなかったのは、もうひとつ理由があって・・・」

キラが首をかしげた。

アスランは頭をかきながら、困った顔でキラから目をそらす。
「キラの好きな子が怒りながら僕に言ったんだ『ザラ君とヤマト君って仲良すぎ。付き合ってるんじゃないかって噂がたってる。』って。」

キラはショックをうけて、あんぐりと口をあけた。

アスランはキラに同情する。
好きな女の子にそんな風に思われるなんて。
いたたまれなくなったアスランは、退散する事にした。

「明日までに5ページ、進めておいてね。」
キラと目を合わせずに、アスランは静かに部屋の扉を閉めて出て行った。


第9章へつづく)
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