オーブと君の笑顔

□第2章 妹
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オーブ中心街、最近人気のカフェのテラスで、茶色い髪の女性とサングラスをした男性がお茶を飲んでいる。

「一雨きそうだな」
カガリは空を見上げてポツリと言った。
変装用ダテ眼鏡のレンズに黒い雲が移りこむ。

「まずいぞ。だから言ったじゃないか」
アスランは不機嫌をありありと表情に浮かべて苛立ちを隠さない。
こちらも変装用のサングラス越しで、カガリをたしなめるようにひと睨みした。

昼下がりのオーブ中心街は、道行く人であふれている。
気軽に街中を歩けない二人は変装して休憩中。
空いた時間にチョットだけ行政府を抜け出してきたのだ。

テラス席で話題の新作スイーツをほおばりながら、カガリは飄々と答える。
「残念、そろそろ帰るか」
天気の急変を告げる強い風が彼女の茶髪のウイッグを乱す。

「そろそろというか、もう午後面会のお客様が行政府に着くぞ。遅刻だ」
ヘルメットを持ち、アスランは席を立つ。

二人は少し急ぎ気味に、店の前に停めてあったバイクに乗った。
車で乗り付けては目立つので、行政府にあった一番小さな二輪車を拝借してきたのだ。

「大丈夫大丈夫。午後一番の面会者、誰か知ってるか?」
カガリがバイクの後部座席にまたがると、アスランに無理やりヘルメットを被せられる。

「知らない。プラントからの客だっていうのは聞いているけれど」
アスランが小型バイクにエンジンをかけ、発進した。

カガリがアスランのウエストに腕を回してしがみつく。
「バルトフェルドのおっさんだ。ちょっと艦が遅れているって連絡があったから、少し遅れても間に合うぞ」

「バルトフェルドさんがわざわざオーブへ?何の案件だろう」

「さぁ?『一緒においしいコーヒーでも』なんて言ってたけれど・・・あ、停まってアスラン」

アスランがバイクを止めると、カガリは身軽に後部座席から飛び降りた。
「この前オマエの家で私がドリップしたコーヒー豆、この店のなんだ。おっさんにもご馳走してやろう」

カガリは意気揚々と店へと入っていく。

アスランは渋々後に続いた。
「もう時間がないぞ。急いで済ませろよ」

「わかってるって。うるさいなぁ、お前なんだかキサカに似てきたぞ」

ポンポン文句を言い合っている仲のよさそうな二人に、店員がクスクス笑いをもらす。
「ねぇ、あの人准将に似ていない?」

店員の声を漏れ聞いたアスランの肩がピクリとゆれる。

「え、じゃあ一緒にいるのって誰?彼女かしら?代表じゃないみたいだけれど・・・」

ウイッグと眼鏡で変装しているので、カガリが代表とばれなかったことに安堵しつつ、アスランはゴシップのネタにされるのではないかと懸念した。

カガリが選んだコーヒー豆を、アスランが会計していると店員に話しかけられる。
「お連れの方、コーヒーにお詳しいんですね。この豆は人気で、今の時期にしかお店に置いていないんですよ。彼女さんですか?」

店員の質問に困ったアスランの苦肉の策。
「いえ、妹です」



行政府への帰り道、カガリはアスランの肩にツメを立ててつかまり、ご立腹だった。
「誰が妹なんだよ!」

バイクのエンジン音がうるさくて、二人とも大声になる。
「だって、ああ言うしかなかったんだ。俺がザラ准将だってバレそうだったんだぞ」

「そうじゃなくて、」
カガリはアスランの首に腕を巻きつけ、顔を近づける。
「『姉』でも良かった訳だろ!」

「そんなことで怒っているのか!?」
「そんなことってなんだよ。私がお姉さんだっていいだろ!」

なんかキラにも同じようなことを言っていたなぁと思いながら、アスランが返す。
「15の頃ならまだしも、今はもうずいぶん俺の方が背が高い。妹って変だろ」

「身長で決めるな!私の方が誕生日先なんだぞ!」
カガリがアスランにチョークスリーパーを掛けた。

「馬鹿っあぶない!やめろカガリ」

蛇行する小型バイクは、道行く車にクラクションを鳴らされながら、一路行政府を目指す。

アスランは雨が降る前に、無事帰れることを祈った。

第3章へつづく)
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