桜が舞う龍の道

□一目惚れした鬼と竜
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疾走と森の暗闇を走る影が三つあった。
まるで二人が一人を追い掛けるように。
そしてまた二つの影。
片倉軍大将、片倉小十郎とその家臣伊達成実である。二人は獣道を馬に跨がり夜中(やちゅう)走っていた。

「ねーねーなんで急に忍なんか雇う事にしたの?」

少し後ろを走る成実が小十郎に聞いた。

「この乱世、慌ただしく情報が飛び交っている。忍が居ない俺達の軍は少し劣っているからだ」

小十郎は振り返らず答えた。

「じゃあさ!くの一にしよ!くの一!」
「しねぇよ」
「ケチッ!!」

片倉軍は忍が居ないのに良く敵軍の弱点を知っていると言われている。だが、戦国乱世は常に急速に動く。僅かな情報に頼る片倉軍には少し不利な状態になっていた。
そもそも小十郎は忍を好かない。忍とは金が貰えればどんな主にも就くし易々と残酷な殺しをする。まさしく残忍と言える。
主が居なくなればすぐ変える。表向きの主従関係などすぐ裏切られ終わりだ。
仁義を重んじる小十郎には非道人同様に思えるのだ。そんな小十郎を知っている成実は小十郎が雇うと言い出した時は少し驚いたがすぐ賛成した。
忍の里は誰も知らない。
二人が向かうのは手紙に書いてあった地だ。
其処で何人か優秀な忍を紹介してくれるとゆう。
突然小十郎が左手を横に伸ばし馬を止めた。成実も釣られ馬を止める。

「大将どうした?」

小十郎は馬から降りて周りを見渡す。
何か近付いてくるのだろうか。成実は体を強張り緊張しながら周りを見渡す。
この辺だったら熊や猪が出ても可笑しくはない。
二人は刀と槍を持った。
すると目の前に木から女が落ちてきた。
女は素早く立ち直ろうとするが傷が痛み立てなかった。

「覚悟」

上から忍の男が小刀を振り下ろす。
女は目を瞑り両腕で身構えた。

「ぐはっ!!」

女が恐る恐る目を開ければ男が倒れていた。

「なっ…!?」

驚く女の後ろに別の男が現れ女を刺そうとしたが成実が男を切り捨てた。
女はただただ呆然と見ていた。

「大丈夫か」

小十郎が女に声をかけた。

「何故…俺を助けた…」

女は座り小十郎を睨み付けた。

「何故って…女が男に襲われてたら助けるだろ」

小十郎も女に目線を合わせる為その場に座った。

「とりあえず成実、女の手当てをしてやれ」
「はいよ」

成実は懐から包帯や絆創膏や布を出し応急処置をした。
出血が少し多く女なのに良く動けるな、と成実は思った。それとどこかで見た事がある顔とも思った。
女は手当てを拒否したが少々強引に傷の手当てをした。

「なんだ、じっと顔を見て。何か可笑しいか」
「あ、いや何でもない」

成実は何か思い出せないかと脳内を巡らせるがモヤモヤしか出てこない。

「女、何故追われていた」
「助けてもらったとはいえ、敵軍の大将に教えるものか」

手当てが終わった女に小十郎は話を続けたが女は小十郎と顔を合わせはしない。
小十郎は溜め息を吐いた。黙り込んだ二人の間に成実の声が割り込んできた。

「思い出した!!君“政宗”でしょ!?」
「な、なんで俺の名前を!?」
「俺だよ俺!伊達成実!覚えてない?」

政宗と呼ばれた女も成実同様に頭を回転させた。

「あ!!」

政宗も思い出した様だ。小十郎は二人の関係を聞いた。
成実と政宗は従兄弟同士で幼い頃は良く遊んでいたとゆう。だが政宗の両親は忍、成実の両親は武士との事で道は違い、二人は十年近くは会っていなかった。

「会いたかったよ政宗!」
「俺も…。さっきは悪かった」

政宗は知り合いに会ったお陰で少し顔色が良くなった。

「いいって〜気にしないで!ところで」

成実は少し聞くのは悪いとは思ったが政宗に聞いた。

「悪いと思うけど、右目どうしたの…?」
「あぁ、これな。任務で失敗してやっちまった」

笑ってみせるがとても痛々しい傷だ。
成実と政宗の話が少し盛り上がってる所に小十郎が割り込む。

「お前、豊臣の忍だろ」

政宗は“豊臣”と聞いて体を跳ね上がらせた。
政宗に何かあったな。と小十郎は踏んだ。その通り、政宗は右目の怪我で追われていた。

「確かに俺は豊臣軍忍、長だ」
「何故追われていた」
「……」
「良かったら話してくれないか?」

優しい声で政宗に問いかける。

「俺はある任務で右目の視力を無くした…」

政宗はゆっくりと口を開き話始めた。
政宗は右目を斬りつけられ視力を失ったが任務を遂行させて大阪城に戻った。
しかし、忍にとって目とは大切なもので視力を失うなど忍としてリスクを伴う。豊臣軍師、竹中半兵衛はそんな政宗を切り捨てようと他の忍に暗殺を命令したのだ。

「竹中曰わく、俺の南蛮を話せる能力を買っていたんだ。勿論忍としての能力も買われていた。でも片目が無い忍は使えないって言われてな」

世界進出を掲げていた豊臣には政宗はよく使えた忍だった。政宗が居なくなろうと普段政宗は他の兵や忍に教えていたため何も問題は無い。
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