桜が舞う龍の道
□伊達の生存戦略
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「あ、丁度良いところに。筆頭!筆頭宛に荷物が届いてやしたぜ!!」
「荷物?」
この物語は一つの木箱に入った荷物から始まった。
「政宗様、失礼致します。その箱は?」
政宗の自室に入って来たのは竜の右目と言われる片倉小十郎。
彼は政宗の顔を見てすぐ目線を主の前にある木箱に向けた。木箱は長方形で少し大きく何か大きい物が入っているのだな、と小十郎は思った。
「俺宛ての荷物なんだとよ」
「左様で。何故開けぬのです?」
小十郎は政宗が目を通さないといけない書類を机の上に置き、箱を挟んで政宗の前に座った。
「いやな、宛名が書かれてねぇんだ。他国の罠かと思うと開けられなくてよぉ…」
小十郎も箱を隅々まで見るが“伊達政宗殿”としか書いておらず何か怪しい箱に見え始めた。
「確かに怪しいですな…」
木箱の素材といい、触り心地といい、とても高級品に思える。それに加え金色に輝く龍が描かれ如何にも政宗の好みを知っているようだ。
「然し…この木箱中身は何か分かりませぬが随分軽いですな…」
「あぁ。だからこそ怪しい…!!!」
少々今の政宗はイライラしている。
物事がハッキリしないあやふやな事を嫌う政宗は今の状態に苛立ちを覚え始めた。
「あぁぁぁぁ!!!!!!!!もういい!!!!!開ける!!!!!!」
「政宗様!!?」
政宗は小十郎から箱を奪い赤い紐を荒々しく解き箱の蓋を開けた。
「っ!?」
「な、何だコレは…!!」
中を見た二人は唖然としていた。
それもそうだ中には青い卵型の球体が入っていたのだ。
左から背中に1、2、3と書かれていた。
「……何でしょうか……コレは……」
小十郎は困惑していた。恐る恐る2と書いてある球体を手に取る政宗はじーっと見つめ何かを思い出したような表情を見せた。
「思い出した!!これはpenguinだ!!」
「ぺ、ぺんぎん…?」
政宗の口から聞いた事がない言葉が発せられ小十郎の頭の上には沢山のハテナが浮かんでいた。
「penguinってーのは奥州より寒い北に住む動物なんだ。暑いのは苦手らしい」
「ぺんぎんと言う生き物はこんなに丸っこいのですか?」
「いや、もっとシュッとして少し目つきが悪い」
「何か可愛らしいものを付けているのですか?」
「付けてねぇ。オスメス似たような顔付きだ」
小十郎も手に取って見るがそれぞれ目つきが違う。2と書かれたペンギンは目が丸く睫毛があり愛らしい眼だ。他の1は目つきが悪く頬には絆創膏、見た目でやんちゃなペンギンだ。
3は2の目で睫毛がない。何考えているのかわかりずらい。
「なんかコイツら…可愛いかもしれねぇ…!」
政宗は1と2を抱きしめた。
「高性能な人形だ…縫い目が見当たらない…」
「お、まだ何か入ってる」
政宗は箱底にあった珍しい帽子を手に取った。
「凛々しい顔付きなpenguinだな。被ってみるか!」
遊び半分で被った政宗。
「中すんげぇーモフモフしてっ…!!」
全て言い切る前に政宗は白目を向いて背中から倒れた。
「政宗様ぁぁ!!?」
小十郎はペンギンを投げ捨て政宗の呼吸を確認した。口元に手を当てれば息が感じらた。
「政宗様!!政宗様ぁ!!!」
「うぅ…」
うっすら瞼を開いた政宗に小十郎は顔を覗かせた。
「まざっ!!!」
呼び掛けようとして政宗の名を口に出した瞬間政宗は勢い良く上半身を起こした。そのせいで小十郎は政宗の頭突きを顔面で受け止めてしまった。
「〜〜ッ!!!」
そして立ち上がった政宗は鼻から血を出して涙目の小十郎を見下し人差し指で指すと叫んだ。
「生存戦略ぅぅぅ!!!!!!!!!!!」
「!!?」
そう。この物語は一つの木箱に入った荷物、三匹のペンギンと帽子から始まった。