桜が舞う龍の道

□牢獄
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イジメは良くない事だ。
今この学校で一番分かっているのは俺だけだ。
自負しよう。
何でかって?そりゃあ俺がイジメられてるからさ。
切っ掛けは在り来たりで些細な事だ。
クラスで一人イジメられてたから助けた。
それだけだ。
良いことしただろ?
なのに助けた報いがコレだ。
痛い。
上靴に画鋲だ。
血が出てしまった。
保健室で絆創膏を貰い貼る。
まだコレは優しい方だ。
教室に行けば自分の机が廊下に置かれている。と言うか、投げ捨てられていると言った方が正しい。
机を片付け席に着く。
少し前までは助けたクラスメートと話をしていた。だがイジメのターゲットが移り俺に変わってからは離れ話さなくなった。
学校は牢屋だ牢獄だ。
一つの世界とも言ってもいい。
階級が決められ上級には絶対服従。言わば貴族と奴隷。天地の違い。
何が皆仲良くだ。
何が先生は皆の味方だ。
仲良かったらイジメなんて言葉は無いし味方だったらクラスの異変に気付くだろ。
全ては想像だ妄想だ幻だ。現実は酷い。
先生はクラスで力がある人間に自分もイジメられないよう媚びり下級の人間には目もくれない。相談しても何もしてくれない無駄な人間だ。
結局は自分の事しか考えていないんだ。
教育者は助けてくれないんだ。
日に日にイジメはエスカレートしてゴミ箱を頭の上でひっくり返されたり“死ね”“何で生きてんのカス”と書かれたメモを投げられたり机に一本の花が置かれていたり肉体的精神的なモノとなった。
最初の悪口、陰口が優しく感じる。
もはや俺の感覚は鈍っていた。
両親には言っていない。
迷惑をかけたくないんだ。ニュースで話題になってた時は言えよ、と思っていたがいざ自分が対象になると言えないものなんだ、と最近自覚した。
自殺した子の気持ちが分かるよ。
両親は本当の味方だ。
だから話さない。言わない。
心に秘め時が去るのを待とう。
クラスメートの一人が言った。
俺の机の前までやって来て。

「死ねば?」

その一言は俺以外の人間にとっては大爆笑出来る一発芸のようだ。
俺には何が面白いのか分からない。
昼休みに入る十分前。
黒板に字を書いてる先生にトイレ行って来ます、と許可の返事を待たず教室を出た。
下駄箱に入れて置いたビニール袋を持ち屋上へ上がる。
誰かサボっている人間がいるだろうと思っていたが運良く誰もいなかった。
屋上の縁(ふち)の手前を囲うように建ててあるフェンスをよじ登る。
頑張れば登れるフェンスで俺はフェンスを越え縁に足を付けた。
誰もいない。静かだ。
ビニール袋の中には多めに買ったパンとジュースが入っている。
縁に座りパンとジュースを交互に飲み食いする。
頬を撫でる様にそよ風が吹いた。
気持ち良い。
後で昼寝をしよう。
チャイムが何時の間にかなったらしく人間がやってきていた。
俺がこんな所にいても声を掛ける人間も先生を呼びに行く人間もいない。
人間達にしたら俺はいない存在なんだ。空気なんだ。なんか空気だとカッコワリィな。
風だ風。うん、しっくりくる。
今吹いてる風だ、俺は。
風かぁ…いいなぁ。
空を自由に泳いで世界を回る。浪漫だなぁ。
こんなドロドロしてなくて爽やかな気持ちで世界を回るって夢だなぁ。
フワフワ〜とソヨソヨ〜と流れて消える。
いつかは人間だって死んで消えるから怖くない。
でもヤッパリ少し恐怖はある。死後はどうなっているのだろう。無なのかあの世があって天国と地獄があるのだろうか。
天国がいいなぁ。
近頃こんな事ばかり考えてしまう。
自殺志願者であるのだろう。
今なら簡単に死んで風になれるかな。
止めよう。
最期の晩餐がパンとジュースって。
遺書だって書いてないし両親に迷惑を掛
ける。嫌だ。止めよう。
どうせならイジメてくる人間を道連れにしたい。
そう思うのがイジメられっ子の気持ちだ。自殺してしまった子もいっその事道連れにすれば良かったのに。道連れにしたら地獄に落ちるんかな。あー嫌だな。イヤイヤ。
この世もあの世も嫌な事ばかり。
飛び降りたら嫌な事から逃げられるよな。枷が外れて牢屋から出れて自由な身になる。鳥籠から逃げた小鳥の様に。
でも親が…。
立ち上がってそよ風を全身に受ける。

「ぅわ…」

急に背中を押され俺は空を舞った。
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