Operation
□先生
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夏目漱石「先生」
こいつが本を読んでいる姿を初めて見るかもしれない。
珍しい。明日は雨ではなく、メスでも降って来るのではないかと心配になる。
「なぁ、先生」
鈍色の長髪を携えた隻眼の男が突然口を開いた。
私は男の言葉に何か反応するわけでもなく、ただ視線をそちらの向けた。
「俺達って、この二人に似てないか?私は先生でKは俺だ。ほら、俺キリコだし」
少しだけ口角が吊り上がる。
「ほう。ではお嬢さんは誰だい。ピノコかい?」
「いいや、患者だよ」
ブラックジャック先生、あんたは自分の命を掛け患者の命を救う。
俺は患者が望むならその命を終わらせる。
どちらも俺は悪い事だとは思わん。俺だって医者の端くれさ、そりゃ命が助かるにこした事はないが。
しかしお嬢さん(患者)はどちらを好きになるだろうなあ…きっと先生に惚れるに違いねぇ。
所詮、俺は嫌われ者なのさ。そして人生に疲れた俺は自ら命を絶つ。
「赤く染まった部屋で死んでいる俺をみつけた時、先生ならどうするかい?」
長ったらしく話した後、この男もこちらに視線を向けた。
「死なせない。私だったら、物語の私と違う選択をする。お前さんの事は決して裏切らない」
「ほー…、そうかい」
「それに…私はお前さんの事、嫌いじゃない」
そう言った瞬間、男、キリコが嬉しそうに笑った。